カスタマーサクセス2.0を実践する製造業に学ぶ、顧客視点でのサービスづくり:製造業のための「カスタマーサクセス」入門(3)(2/4 ページ)
顧客の成功体験づくり、「カスタマーサクセス」の重要性に国内外の製造業から注目が集まっています。本連載ではこの概念を分かりやすく解説します。第3回は前回紹介した「カスタマーサクセス2.0」を実践する企業の事例を取り上げて、エッセンスを抽出していきたい。
「To Customer」から「For Customer」へ
日立建機の他にも、顧客が買った後の利用体験の向上を目指したサービスを展開している企業は多くあります。有名なものとしてロールスロイスの事例があります。同社では、航空機向けエンジンの開発や販売だけでなく、「Power by the Hour」と呼ばれるサービスを提供し、利用したエンジンと飛行時間を基にして料金を請求するビジネスモデルを提供しています。さらに、エンジンにはセンサーが搭載されており、そこから送信されるデータで稼働状況を把握し、故障する前段階でのエンジン点検や部品交換を顧客に提案可能にしています。
製造業といえど、このようなサブスクモデルを導入し、顧客の製品利用シーンに踏み込んで顧客体験を向上させる取り組みは今や珍しくなくなってきています。日本でも、エプソンが「Epson Cloud Solution PORT」という印刷サブスクモデルを2022年5月にリリースしたことが記憶に新しいところです。これにより、顧客はプリンタから離れた場所でも印刷指示や印刷ジョブ進捗管理を行うことができ、機種別の偏り改善やプリンタの待機時間の削減を可能にし、生産効率向上という体験を享受できます。
以上で挙げたように、カスタマーサクセスを実践している企業から、私たちは2つのことに気付かされます。1つは、どの企業も、顧客にとっての価値は何なのか、顧客にどのような成功体験をもたらすことができるのかという発想から入っていることです。どうしても、売り手である企業は、商品(モノ)だけの発想から抜け出しにくく、仮に首尾よくサービス化を果たしても、自分たちが顧客にどのような価値を提供するかを中心に考えてしまいます。あくまでも主役は企業自身であり、顧客への一方的な価値提供になりがちです。筆者はそれを「To Customer」タイプの顧客アプローチとして定義します。
しかしながら、何が起きたら顧客の利益になるかという顧客価値を考えることからスタートするのが、「カスタマーサクセスを実践している企業」といえるのではないでしょうか。こちらを、「For Customer」タイプの顧客アプローチとし、筆者はカスタマーサクセス企業にみる傾向として捉えます(図5)。
さらに、もう1つの注目点として、事例に挙げた企業はどれも革新的な新製品を生み出しているわけではありません。もちろん、多少の製品そのものの改修はなされているのかもしれませんが、ポイントは、彼らは自分たちが提供してきた価値と顧客の成功体験との間にある期待値のギャップをデジタルテクノロジーで埋めているということです。真の意味でモノにとらわれず、制約なしに、まず顧客のために成功体験とは何かを考え尽くす。そしてその解決のため、製造業は高度化している情報技術の恩恵を大いに活用すべきだと筆者は考えます。
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