カスタマーサクセス2.0を実践する製造業に学ぶ、顧客視点でのサービスづくり:製造業のための「カスタマーサクセス」入門(3)(1/4 ページ)
顧客の成功体験づくり、「カスタマーサクセス」の重要性に国内外の製造業から注目が集まっています。本連載ではこの概念を分かりやすく解説します。第3回は前回紹介した「カスタマーサクセス2.0」を実践する企業の事例を取り上げて、エッセンスを抽出していきたい。
本連載第2回で、カスタマーサクセスは2.0時代に突入、守りのカスタマーサクセスから攻めのカスタマーサクセスへと移行し、企業視点においても学習/成長エンジンの源泉となり得ることを学びました。
それを現場オペレーションで分かりやすく表現するのであれば、いわば従来の「カスタマーサポート」に当たるのがカスタマーサクセス1.0で、カスタマーサクセス2.0は顧客の利用価値実現にフォーカスしたプロアクティブな活動と定義付けできると考えます(図1参照)。
本稿では、このカスタマーサクセス2.0を実現していると筆者が考える企業事例を取り上げながら、実際のビジネスシーンで起こっているカスタマーサクセスの傾向、そして、私たち日本の製造業が同様にカスタマーサクセス志向経営を目指す場合の留意点を考察していきたいと思います。
間接材を買える「工場自販機」のサービス
W.W. Graingerは、1927年に設立された、米国イリノイ州レイクフォレストに本社を置く、事業者向け間接資材(MRO=maintenance, repair and operations)のB2B企業です。北米のみならず、欧州、日本において幅広く事業を行い、米国の「Fortune 500」にもノミネートされている優良企業です。工具などのEコマースを展開する日本のモノタロウの親会社として知っている読者もいらっしゃるのではないでしょうか。
一般的に、製造業での企業間の購買プロセスは、EDI(Electric Data Interchange:電子データ交換)を利用し行われます。その一方で、工場ラインで使われる消耗材やツールは購買頻度が高く、顧客にとって購入にかかる手間は大きかったといえます。そこで、Graingerはいち早くEコマース事業を始め、製品の注文や必要部署からの承認、納品管理、請求書管理などをオンラインで可能にしました。まさに、顧客の購入の手間を削減し、利便性の高い購買経験を提供しているカスタマーサクセスの事例といえるでしょう。このオンラインビジネスは今やGraingerの事業の中核となっており、成長エンジンとして優先的な取り組みが進んでいます。
また同じMRO市場で、顧客企業の工場への自動販売機導入も進んでいます。Graingerと同様に北米に本社を構えるFastenalは、自動販売機に工場現場でよく使われる間接材在庫を入れておき、工場で担当者が自分のIDカードや認証番号で部品やツールをすぐに購買できるようにしています。
顧客視点でのメリットは、工場内に設置されていることで在庫を取りに行く時間や配送のための待機時間を削減でき(時間価値を得ることができ)、Eコマースでの利用体験以上の価値を得られることにあります。同社では、この自動販売機やその周辺の他在庫を管理するサービスをオンサイト(現場管理)で集約していますが、このサービスは売り上げの20%を占めており、今後も拡大していく見通しです(図3)。
ここで、日本製造業の事例も取り上げてみましょう。日立建機は、世界中の社会インフラや産業、住宅の整備を支える建設機械を作り進化させ続けてきた1兆円企業です。この大型の建設機械や鉱山用機械は、顧客にとってはメンテナンス費用が高く、稼働率の悪い機械は売り上げマイナスに直結するため、買った後の利用シーンでの体験が非常に重要になってきます。
さらに、熟練技能者の高齢化を背景として、省人化による生産性向上も課題となっています。そこで、日立建機は、このような顧客視点での課題を解決することを目的に、現場でオペレーターが作業時に行っている「認識/判断/実行」のプロセスを、機械システムで行うためのプラットフォーム「ZCORE」を開発しました。顧客の生産性向上をもたらすソリューションですが、日立建機にとっても単なるモノ売りではなく、ソリューション提供者としての企業変革をもたらす大きな取り組みとして位置付けられると考えます。
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