リコーが苦手な新規事業育成を担うフューチャーズBUは「社会課題解決」を目指す:イノベーションのレシピ(1/2 ページ)
リコーが新規事業部門であるリコーフューチャーズBUの取り組み説明。社会課題解決をミッションとする8つの新規事業は、ただもうけることを主軸にはしていないという。
リコーは2023年1月19日、東京都内で会見を開き、同社の新規事業部門であるリコーフューチャーズBU(ビジネスユニット)の取り組みについて、リコー コーポレート執行役員で同BUのプレジデントを務める入佐孝宏氏が説明した。入佐氏は「当BUが手掛ける8つの新規事業は、リコー独自の技術による社会課題解決をミッションとしており、ただもうけることを主軸にはしていない。ただし、自立自走していくためにも各事業の売上高を早期に100億円以上に引き上げていきたいと考えている」と語る。
入佐氏は1989年の入社から流通系表示ラベルなどで用いられるサーマル事業部に所属し、新規事業や海外事業などを手掛けてきた。2017年に経営企画本部に異動してからは、同時期にリコーの社長に就任した山下良則氏の下で事業構造改革を推進するとともに、2021年4月に発足したBU制(いわゆるカンパニー制)の組織設計も行った。このBU制における目玉の一つになったのが、リコー社内で芽吹きつつあった8つの新規事業をまとめたリコーフューチャーズBUであり、入佐氏はそのトップに就任した。「経営企画本部に異動してから久々の現場復帰でワクワクの日々だ」(同氏)という。
リコーフューチャーズBUの8つの事業は、リコーが得意とするエッジデバイス×情報で新たな価値を生み出し生活の質向上に貢献する「データ型」の4事業と、アナログなモノづくりをデジタルに変えて製品のライフサイクルでのCO2排出量削減に大きく貢献する「デジタル製造型」の4事業に分かれる。
会見では、データ型の4事業のうちスマートビジョン事業と社会インフラ事業、バイオメディカル事業、デジタル製造型の4事業のうちPLAiR(プレアー)事業とエネルギーハーベスト事業について紹介した。
新規事業の価値創出に用いる3つの手段
入佐氏は、リコーフューチャーズBUにおける新規事業の価値創出に用いる手段を3つ挙げた。1つ目は、複合機をはじめとするオフィスソリューションや360度カメラなどのコア技術の活用による「現場丸ごとをコピー」である。リコーの既存事業の多くが、オフィスの課題を解決することで成長を遂げてきたわけだが、「これからはオフィスにとどまらず現場の課題解決が求められる。そこで役立つのが『現場丸ごとをコピー』だ」(入佐氏)。
「現場丸ごとをコピー」を活用する新規事業の代表例が、スマートビジョン事業と社会インフラ事業である。スマートビジョン事業では、他産業よりも労働時間の長時間化が課題となっている建設業界向けに、360度カメラ「RICOH THETA」や通信技術、AI(人工知能)技術の掛け合わせで、オフィスと建設現場の橋渡しをしていた人の移動を削減する遠隔臨場の実現を提案している。入佐氏は「この新たな価値創出はリコー単独では難しいことも多い。実際に、スマートビジョン事業の建設業界向けの提案では、施工分野においてスパイダープラスとの共創を進めている」と説明する。
道路やトンネル、橋梁といった国内インフラの50%以上が2033年には建設後50年以上が経過するなど老朽化が進む一方で、インフラ点検作業が人手に頼っていることが課題になっている。そこで社会インフラ事業では、車両にステレオカメラや被写界深度拡大カメラを搭載して走行しながら撮影して、画像処理とAI技術によって不具合箇所を検出し、点検調書を自動出力する路面性状モニタリングシステムを自治体などに提案している。同システムを使えば、人手で100カ所の点検を行う期間に300カ所の点検が可能になるという。「人手で100カ所の点検を行う場合でも、それらの中から詳細な点検や診断が必要になる割合は2〜3割だ。路面性状モニタリングシステムは、そのような人手が必要になる詳細な点検や診断の案件を見いだすスクリーニングを機械が担うことで、ワークフローの変革が可能になる」(入佐氏)という。
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