搬送自動化のカギを握るモバイルロボット、オムロンが考える普及の5つのポイント:無人搬送車
製造現場の自動化で残された「搬送」領域。その自動化を進めるカギとして注目されているのがモバイルロボットだ。このモバイルロボットに早期から取り組み、2022年10月には「第10回ロボット大賞」経済産業大臣賞を受賞したオムロンに、今後の展開と動向について聞いた。
製造現場の自動化が進む中、「搬送」の最適化で注目されているのが、自律搬送ロボット(AMR)と称されるモバイルロボットである。このモバイルロボットにいち早く取り組み、多くの実績を残しているのが、オムロンだ。2022年10月には「第10回ロボット大賞」経済産業大臣賞を受賞した同社のモバイルロボットについて、オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー(IAB) ロボット事業本部長の寺山昇志氏と、オムロン IAB ロボット事業本部 モバイルロボット事業部長の田中貴史氏に話を聞いた。
「潮目が変わった」前年比150%以上のペースで成長を持続
オムロンのロボット事業は、2015年に米国Adept Technology(以下、アデプト)を買収したところからスタートし、モバイルロボットもその流れで本格的に取り扱いを始めた。取り扱い当初は1〜2台の試験導入が目立ったが、最近では本格導入へと進む企業が増えてきたという。寺山氏は「ここにきて潮目は明らかに変わってきています。先進的な企業では、重労働である搬送作業から人を解放すべく、1つの工場で数十台を導入するフェーズに移っています」と手応えについて語る。
また、使われ方にも変化が生まれてきているという。「1つの装置周辺や1つのラインで使うような工場内の部分的な支援で活用するものから、フロア全体や工場全体で搬送業務を担う“面”としての広がりが出てきています。また、それに合わせて用途ごとに可搬重量別に種類を使い分けるなど、複数台を効率よく稼働させるシステムとしての性能も重視されるようになってきました」(寺山氏)。
オムロンのモバイルロボット「LDシリーズ」「HDシリーズ」は、ガイドなしで自在に動ける点や単体として小回りが効くことに加え、人と同じ通路を共有しても安全な機能や簡単に走行ルートを作成できる機能などが特徴となっている。それらに加え、ロボットの統合コントロールやシミュレーション、分析などを一元的に行えるソフトウェア「FLOW Core」を展開し、搬送システムの構築が容易である点も強みだ。市場ニーズの高まりから導入も実際に大きく成長しており、オムロンでは市場成長を上回る前年度比約150%の成長を見込んでいるという。
「ロボット大賞」経済産業大臣賞を受賞、モバイルロボット市場拡大へ
こうした特徴と実績が評価され、2022年10月には、モバイルロボット「LDシリーズ」「HDシリーズ」が「第10回ロボット大賞」(幹事:経済産業省、日本機械工業連合会)の経済産業大臣賞を受賞した。受賞について寺山氏は「ロボット大賞にはこれまでにもエントリーしていましたが、今回初めて受賞することができました。モバイルロボットの周囲の認識が変わってきた点も評価につながったと感じています」と分析する。
オムロンのモバイルロボットの導入実績は、2022年度末には40以上の国と地域で累計4000台を超える見通しであり、今回のロボット大賞受賞でさらに弾みをつける考えだ。「今回受賞したものの、まだまだモバイルロボットのことをご存じない人もいます。受賞を通じ、従来は難しいと考えていた搬送領域の自動化が行える可能性を知ってもらいたいと考えています」と田中氏は語っている。
モバイルロボットの普及が拡大するにつれて参入企業も増えてきているが、寺山氏は「これまでの導入実績から得られた各業界固有の搬送に関する知見があることに加え、当初から複数台での利用を想定したシステムやプラットフォームとしての活用のしやすさがオムロンの特徴です。今後本格導入フェーズに入り、導入台数が増えれば増えるほど、こうした強みが生きてきます」と独自の強みについて述べている。
今後は、現在進んでいる自動車業界や半導体業界などでの導入をさらに加速させていくとともに、食品、飲料や医療機器、医薬品など新たな領域でも普及を推進する。寺山氏は「製造現場は人手不足で苦しんでいます。また、人の能力はより創造的な領域に集中させる動きが進んできています。その意味で搬送作業は自動化を進めていくべき領域です。人が運んでいる物量が多いところでは、業界問わずに広がる可能性があります」と市場のポテンシャルについて語っている。
5つのポイントでモバイルロボット活用へのハードルを下げる
これらを背景に今後のモバイルロボットの展開について、寺山氏は5つの点で活用へのハードルを下げることを示す。「導入前、ロボット選定、システム全体、他社連携、導入後の運用面の5つのポイントでハードルを下げていきます。これらの使い勝手を高めることでさらにモバイルロボットの市場を広げられます」(寺山氏)。
まず、導入前では、モバイルロボットが走査する製造現場の地図作成の容易さや、シミュレーションによる導入期間の短縮などに取り組む。これにより、事前準備の負荷低減を進めるとともに、試験導入での試行錯誤の期間を短縮し最適なワークフローをいち早く構築できるようにする。
ロボット選定では、機種のラインアップの拡充を進める。現在は最大積載重量が60〜90kg、250kg、1500kgの3タイプを展開しているが、2023年にはその間に入るような可搬重量のタイプを追加し、現在の3タイプの間の領域を強化する。さらに、用途に合わせて防塵、防水や静電気などの環境仕様にも対応していく。機能面では、停止位置の精度が現在8mm、停止までの速度が10秒程度かかっているところをさらに向上することでさまざまな導入現場への柔軟な適用やサイクルタイムの改善に貢献していく。
さらに、モバイルロボットと協調ロボットアームを組み合わせたモバイルマニピュレータなどの需要が広がる中で、システムインテグレーションやモバイルロボットの上部に設置するコンベアやカートなど関連製品を提供するパートナー拡充に取り組む。例えば既にグローバルでデンマークのROEQと協業し、汎用カート製品の共同展開などを進めている。
システム全体では、100台クラスの複数制御の最適化を推進する。「100台が個々に動くのではなく、システム全体として最適な判断や運行管理ができるようにソフトウェアの強化を進めていく」と寺山氏は述べている。
他社連携では、ミックスフリートとされる他社製や積載重量の異なるモバイルロボットを同じ地図上で制御し、稼働・運用管理をさせる環境が求められる中、対応を進める。「ユーザーからはインターオペラビリティ(相互運用性)機能を求められており、その機能によりオムロンのモバイルロボットと他社メーカーの自律搬送ロボットとの情報連携や管理を行うような運用が期待されています」(寺山氏)。
さらに導入後は、ダウンタイムの最小化を図るためにも稼働状況の見える化に取り組む。既に走行実績からヒートマップによりモバイルロボットがどこを走行し、どこで停滞・エラーを起こしているかなどの情報とともに可視化できるツールは提供しているが、これを他の設備の情報などと組み合わせて最適な形で示せるようにしていく。
寺山氏は「これらの取り組みの一部は今でも実現できますが、将来目指す姿としては自社製品と他社製品の枠組みを超えて、さらに人の動きも含めて高度に協調できるようにしていく考えです。オムロンとしての強みは示しつつ、モバイルロボット市場そのものを広げていくことが重要だと考えています」と抱負を述べている。
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提供:オムロン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年2月19日