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インタビュー

「情報の既得権益」を打破 倒産寸前の中小製造業がデジタル改革でどう変わったか未来につなぐ中小製造業の在り方(1/3 ページ)

富士油圧精機というカードフィーダー製造を手掛ける企業をご存知だろうか。同社はデジタルツールを取り入れ、デジタライゼーションを進めていることで知られる中小製造業だ。好調な業績を記録している同社だが、実は一度、倒産目前にまで追い込まれた企業でもある。富士油圧精機が現在どのようにデジタルツールを活用しているのか紹介したい。

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 現在、国内製造業は原材料などの物価高騰や人手不足などといった問題に直面している。大企業より規模の小さな中小製造業では、事業面でより深刻な影響がもたらされているだろう。こうした市場環境下で生き抜いていくために、デジタルツールを用いたDX(デジタルトランスフォーメーション)に早期に着手すべきだ、と言った話を耳にする機会も多い。

 だが、いきなりデジタル化を進めようとしても、どこから、何に取り組めばいいかピンとこない、という企業がほとんどだろう。デジタルに精通した人材や、DXのための予算の確保の難しさなど、中小製造業に特徴的な制約条件が、変革をためらわせる要因にもなっている。

 こうした状況に対して、「現状に悩む中小製造業にとって、デジタルツールの活用はほぼ必須だ。四の五の言わずにやってみて、失敗したら“失敗したという成果”を得たと考えればいい」と熱く語るのが、富士油圧精機 執行役員 第二工場長の剱持卓也氏だ。

 富士油圧精機は群馬県に本社を置く企業で、トレーディングカードなどを1枚ずつ排出して指定枚数でまとめる、カードフィーダーと呼ばれる機器の製造などを主力事業として展開している。図面データ活用クラウド「CADDi Drawer」やビジネス向けチャットツール「Chatwork」などの導入によるデジタル改革に積極的に取り組んでいる。こうした改革の成果は業績面でも、しっかりと出ている。

 ただ、少し前までは「恥ずかしながら、このままでは倒産一直線」(剱持氏)といった状況にあった。富士油圧精機がデジタル改革でどのように変わったのか。剱持氏と、同社 執行役員 第一工場長の吉田忍氏に話を聞いた。

カードフィーダーで生き残ったが、負債も大きく……

 富士油圧精機は木工プレス機の製造を手掛ける企業として1960年に創業した企業だ。後に製本や印刷業界向けの機器製造を手掛けるようになり、2005年ごろから、製本分野で培った技術を応用してカードフィーダーも展開し始めた。製本機器は紙を傷つけずに枚数を正確にカウントし、一定枚数に達すると上下に当て紙を差し込む技術が必要になる。長年培ってきたこの技術を、カードフィーダーの開発、製造にも生かしている。

 現在、富士油圧精機は「カードフィーダーの国内市場シェアの約9割」(吉田氏)を担っている。コロナ禍からトレーディングカードの需要が高まったこともあり、現在では同社の主力事業として成長している。

 だがそれでも、富士油圧精機を取り巻く近年の事業環境は順風満帆とは程遠い状況にあった。原因の1つが、ペーパレス化による製本/印刷業界の市場縮小だ。顧客の設備機器への投資ニーズが減り、製本印刷向けの機械の需要が伸びづらくなっていた。

 頼みの綱は売り上げが非常に安定していたカードフィーダーだった。剱持氏は「おかげで、当社はなんとか生き残ることができていた」と振り返る。

 ところが、そのカードフィーダーの機器開発の過程で膨大な額の負債が発生していた。負債額を鑑みて自力での企業再生は困難だと判断し、富士油圧精機は幾つかの銀行や中小企業再生支援協議会などに相談することとなった。

 その過程で、新生識学パートナーズが富士油圧精機を買収する。この買収を境に、富士油圧精機はさまざまな社内改革を実行することになった。

当時はデジタルツールを「知ろうとしていなかった」

 買収に伴い着任した当時の外部取締役がまず目指したのが、マネジメントの改革だった。経営層からの情報を現場に迅速に伝え、反対に現場の情報を経営層に速やかに上げて経営の意思決定を高速化する。企業内部の情報の流れをデジタルツールで改善することを目指した。

 こうして、外部取締役の指示で、CADDi DrawerやChatwork、その他、営業向けのデジタルツールを次々に導入することになる。その中で剱持氏はCADDi Drawerを、吉田氏はChatworkの導入をそれぞれ担当した。当時、こうしたデジタルツールの存在については、剱持氏も吉田氏もほとんど知らなかった。「より正確に言えば、知らなかったというより知ろうとしていなかった。仮にツールの存在を知ってしまうと、なぜ取り入れないのかといった話になるので、面倒だった」(剱持氏)。

 そうしたこともあり剱持氏も吉田氏も、ツール導入に際してはあまり前向きではなかった。だが現在、富士油圧精機ではCADDi DrawerやChatworkを「ほとんどインフラ化しているといっていい」(剱持氏)ほど、使い倒している。ツール導入の効果を目の当たりにすることでデジタル化の意義への理解が急激に深まり、考え方が180度変わったのだ。

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