サステナブルなモノづくりを支える技術やアプローチに注目したい2023年:MONOist 2023年展望(4/4 ページ)
プラスチック資源循環促進法の施行を契機に、設計者CAEによるバーチャルなモノづくり/設計と解析のシームレスな連携の重要性が高まっています。また、再生プラスチックを利用した製造技術としてペレット式大型3Dプリンタの存在感も注目です。
社会実装の観点では地域全体での仕組みづくりが欠かせない
ただ、こうした世界を実現するには製造技術や材料技術の進化だけでなく、自治体、企業、市民といった地域全体での理解/協力が欠かせません。
この地域全体での資源循環の取り組みで注目を集めているのが鎌倉市(神奈川県)です。2022年6月に、科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」において、地域共創分野育成型プロジェクトとして採択された「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」(慶應義塾大学が代表機関を務め、幹事自治体の鎌倉市、企業21社(幹事企業:カヤック)が参画)の地域研究活動サテライト拠点として「リサイクリエーション 慶應鎌倉ラボ」が開設され話題となりました。
リサイクリエーション 慶應鎌倉ラボにも「混合リサイクル式大型3Dプリンタ」(エス.ラボと共同開発)と呼ばれるペレット材に対応する大型の材料押し出し積層方式の3Dプリンタがあります。その他、回収した使用済みプラスチックなどをフレーク状に細かく砕く粉砕機、粉砕した材料にリサイクル素材の繊維や粉末フィラー入りマスターバッチなどの改質材を適切な配分で添加してリペレットするマテリアル再生装置、再生したペレット材などを乾燥させて造形品質を高める乾燥機、造形材料を配合して3Dプリンタに供給する材料配合/供給機が並び、市民から集めた資源とアイデアを基に、高付加価値アップサイクルの実現を目指しています。
また、資源の回収からアップサイクルまでをつなぎ、市民、自治体、企業の全てが創造的に参加できる新たな“仕組みづくり”の一環として、市民から使用済みプラスチックなどの資源を回収するためのボックス「しげんポスト」を設置したり、「資源循環ルート」の見える化に取り組んだり、「まちのアイテム」のアイデア募集を行ったりもしています。サステナブルなモノづくりの実現は、技術だけで成し遂げられるものではなく、市民、自治体、企業の全てを巻き込んでこそ実現できるものであり、そうしたつながりがあってこそ達成できるものだといえるでしょう。設計者の立場であっても、こうしたマクロな視点を押さえておく必要があると感じます。
以上、新年展望として“サステナブルなモノづくり”をテーマに、設計者CAEによるバーチャルなモノづくり/設計と解析のシームレスな連携の重要性、再生プラスチック利用などにおける製造技術としてのペレット式大型3Dプリンタの可能性、さらにはサステナブルなモノづくりの実現、その社会実装を進める上での地域を巻き込んだ仕組みづくりの大切さについて触れてきました。ミクロな視点からマクロな視点まで幅広くなってしまいましたが、MONOist編集部でも2023年の注目テーマの1つとして“サステナブルなモノづくり”の話題を積極的に取り上げていきたいと思っています。
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