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北欧諸国が主導するデジタルヘルスの多国間連携海外医療技術トレンド(90)(3/3 ページ)

本連載第32回、第45回、第51回、第57回で取り上げた北欧諸国のデータ駆動型デジタルヘルス施策が、多国間連携に向けて進化している。

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北欧諸国をデータ駆動型グローバルデジタルヘルスのテストベッドに

 さらにノルディックイノベーションは、2022年9月14日、「ヘルスユースケース:実現されたビジョン2030の北欧ビジネスへの効果の可視化」(関連情報)と題する報告書を公表している。ヘルスユースケース集は、以下の3つを目標に挙げている。

  • ビジョン2030の実現の効果を可視化する
  • 国家と個人の保健データを橋渡しして有効活用するための道を示す
  • 北欧の官民セクターにおけるイノベーションを後押しする

 そして、個々のユースケース分析のためのパラメーターとして、以下の8つを設定している。

  • A.北欧の医療セクターの全体的な持続可能性
  • B.製品開発と革新的な能力
  • C.北欧の協力関係への影響度
  • D.北欧企業の持続可能な医療ソリューションを提供する能力
  • E.北欧の製品やソリューションの輸出
  • F.国連の2030年に向けた持続可能な開発目標の促進
  • G.北欧地域のビジネスと資本の誘致
  • H.平等とインクルージョンへの効果

 その上で、以下の7つのテーマについて、計8つのユースケースを取り上げ、分析している。

  1. 相互運用性の向上
    • ケース1:Lean Entries(フィンランド・タンペレ)
    • ケース2:Teal Medical(デンマーク・コペンハーゲン)
  2. メンタルヘルスとウェルビーイング
    • ケース3:Howdy(デンマーク・コペンハーゲン)
  3. 個別化された治療
    • ケース4:Bio-Me(ノルウェー・オスロ)
  4. 遠隔医療と分散型モニタリング
    • ケース5:Glucostratus(フィンランド・ヘルシンキ)
  5. 分散型医薬品臨床試験
    • ケース6:Studies & Me(デンマーク・コペンハーゲン)
  6. 持続可能性データの評価と透明性
    • ケース7:Mediq Sverige AB(スウェーデン・クングスバッカ)
  7. 予防ケアへの移行
    • ケース8:Qinematic(スウェーデン・ストックホルム)

 このヘルスユースケースは、ノルディックイノベーションの「ライフサイエンスとHealth Tech」プログラム(実施予定期間:2021年〜2024年、関連情報)に引き継がれている。参考までに、新たなプログラムでは、以下の3つのプロジェクト領域を設定している。

  • 輸出促進と外国投資:北欧のソリューションの選択した市場への輸出に加えて、北欧に対する外国投資とコンピテンスを誘致するための、北欧のクラスター間のバリューチェーン協力および外国のエコシステムとの協力
  • 北欧のテストベッド:既存のネットワークの強化/構築に加えて、北欧のテストベッドやリビングラボ、治療サイト、自治体、民間住宅における治療や二次予防に関連する新たなソリューションの開発と検証を通じたテストベッドでの協力
  • 保健データ:北欧地域の国境を越えた保健データへのアクセスを向上させるよう継続的に取り組み、北欧のHealth Techおよびライフサイエンス領域内で新しい革新的な製品、サービス、プロセスを構築して、これらのソリューション向けの北欧市場を強化するために、保健データ2次利用の領域におけるセクター横断的な協力を加速させる

 輸出促進/外国投資についてみると、ノルディックイノベーションは、北欧各国の産業振興機関と連携して、2014年9月、米国シリコンバレーに「ノルディックイノベーションハウス」を立ち上げた後(関連情報)、ニューヨーク、シンガポール、香港に現地事務所を開設し、2020年3月には東京事務所をオープンしている(関連情報)。

 北欧のテストベッドについてみると、本連載第45回で触れたように、北欧地域は、リビングラボの広域連携活動を積極的に行ってきた歴史があり、ノルディックイノベーションでも、「北欧ビジネス・リビングラボアライアンス」(2015年〜2017年実施、関連情報)、「北欧都市型リビングラボ」(2018〜2019年実施、関連情報)などの実績がある。前述のヘルスユースケースに取り上げられた企業の立地都市は、コペンハーゲン、ヘルシンキ、オスロ、ストックホルムなど、リビングラボやスマートシティー、新産業クラスターで実績のあるところばかりだ。

 なお保健データ利活用に関連して、本連載第83回で取り上げたEHDS規則提案は、引き続き欧州連合(EU)理事会および欧州議会で審議中だ。EHDSは、2020年下半期のEU理事会議長国・ドイツの下で提唱され、2022年上半期の議長国であるフランスの下で規則として提案された枠組であり、今後は、2023年上半期の議長国であるスウェーデン(関連情報)の下で最終合意と発効に向けた調整作業が進められることになる。

 北欧諸国はもともと、国際保健機関(WHO)、経済協力開発機構(OECD)、世界経済フォーラム(WEF)/ダボス会議など、グローバルな多国間連携の枠組みづくりの場でも、積極的な活動を行ってきた歴史があり、2023年以降の動きが注目される。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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