H3ロケットは最終試験「CFT」をクリア、幾多の試練を乗り越えいよいよ打ち上げへ:宇宙開発(3/3 ページ)
ついに、H3ロケット初号機の打ち上げが2022年度内に実施される見通しとなった。これまで難航してきた開発の中で、何が起きて、それをどう解決したのか。打ち上げを前に、本稿ではそのあたりの経緯をまとめることにしたい。
初号機完成の先に控える大きな“壁”
ただ、完成といえるのはH3ロケットの初号機であって、LE-9エンジンの開発はまだ続く。初号機に搭載するのは、あくまで限定的なタイプ1エンジンである。2号機以降で搭載する予定のタイプ2エンジンこそが、“真のLE-9エンジン”と呼ぶべきものなのだ。
LE-9エンジンの大きな特徴の一つは、大幅な推力の調節(スロットリング)が可能なことだった。しかし初号機の打ち上げについては、このスロットリングは不要だ。スロットリングを行わないのであれば、ターボポンプの運転領域は狭くなるので、共振やフラッタは、その運転領域についてのみ考慮すればいいことになる。
それがタイプ1エンジンである。H3ロケットの完成は、これ以上遅らせるわけにはいかない。より早く、確実に初号機を打ち上げるために、問題を切り分けた形だ。
一方2号機では、スロットリングが必須になる。スロットリングを実装するタイプ2エンジンになると、全ての運転領域から、共振やフラッタを追い出す必要がある。タイプ1エンジンでは“0の矢”と“1の矢”の設計が採用されたが、タイプ2エンジンでは“2の矢”以降も含め、あらためて最適な設計を選定する予定だ。
その他に、エンジンの重要部品である噴射器(インジェクタ)も変更になる。タイプ1エンジンでは実績のある機械加工が採用されたが、タイプ2エンジンでは新技術の3Dプリンタが使われる。3Dプリンタ製になれば、さらなる低コスト化が可能になる。
なお、初号機にはLE-9エンジンが2基搭載されているが、2号機はブースターなしの形態であるため、より大きな推力が必要になり、LE-9エンジンは3基に増える。エンジン構成が変わるので、CFTも再度実施する予定ということだ。この2号機の打ち上げが成功して初めて、H3ロケットも“完成”といえるのではないだろうか。
現在、世界の打ち上げ市場は、大きな転換期を迎えている。ロシアのウクライナ侵攻により、事実上、ロシアのロケットは使えない状態。衛星コンステレーション型の通信衛星網を展開するOneWebへの仕打ちなど、その行為は信用を失うに十分なもので、10年単位で尾を引くだろう。日本にとっては、打ち上げ需要を取り込む大きなチャンスであるだけに、このタイミングでの完成遅れは非常に痛い。
ただ、急いで打ち上げて失敗するのに比べれば、開発遅れの方が遙かにダメージは小さい。現行のH-IIAロケットが退役すれば、日本にはH3ロケットを代替できる打ち上げ手段はなくなる。もしH3ロケットが失敗して、打ち上げが年単位で止まってしまえば、国の宇宙政策への影響も極めて大きくなる。
日本のロケットはこれまで、H-IIは8号機、H-IIAは6号機、M-Vは4号機、イプシロンは6号機と、いずれも10機以内で一度失敗している。ロケットはどうしても、打ち上げてみないと分からないことも多く、そのため初期には失敗する確率が少し高くなる傾向がある。
しかし近年は、数値シミュレーションによる解析技術や、翼振動計測試験のような計測技術の進展によって、打ち上げなくても分かる領域は確実に拡がりつつある。そういった技術も活用し、H3ロケットは今のうちに徹底的にリスク要因を排除すべきだし、2回の延期は、その結果でもある。最初の10回の打ち上げを、ぜひ無事故で乗り切ってほしい。
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