AIが機器の稼働音を解析して劣化の兆候を検出、ノイズによる誤検知も低減:製造現場向けAI技術
東芝は、機器の稼働音を解析し、高精度に劣化の兆候を捉える音響劣化推定AI「VAE-DE」を開発した。音響ノイズや電気的ノイズが稼働音に混入した場合も、誤検知せずに機器の劣化の兆候を早期に捉える。
東芝は2022年11月16日、機器の稼働音を解析し、高精度に劣化の兆候を捉える音響劣化推定AI(人工知能)「VAE-DE(Variational AutoEncoder-based Deterioration Estimation)」を開発したと発表した。周囲の騒音、雑音などの音響ノイズや回路の電気的ノイズが稼働音に混入した場合も、誤検知せずに機器の劣化の兆候を早期に捉えられる。
VAE-DEは、深層学習の手法の1つ「変分オートエンコーダー(VAE)」のネットワークを使用し、ノイズに対して誤検知を起こしにくいVAEの手法をベースに、新たに正常音と劣化傾向音を分離する独自の基準を用いて学習している。
これまでのVAEは、ノイズが正常音に混ざったケースで誤検知することは少ないものの、微弱な劣化傾向音を正常音と判断してしまうリスクがあった。VAE-DEは、正常音の範囲外として微弱な劣化傾向音のみを検知できる。
同社は、冷却ファンを用いてVAE-DEの有効性を検証。冷却ファンは、機器本体が正常に動作するために不可欠な部品で、常に高速で回転しているため、機器本体より早く劣化することが多い。劣化の速度は機器の利用状況やファンの個体差で大きく異なるため、状態基準保全によって、故障前にファンを交換できることが望ましい。
検証の第一段階として、電力設備で数年間使用された冷却ファンの稼働音を収集、分析し、人に認識できない「高周波非可聴音」のわずかな上昇が劣化傾向を示すことを確認した。
続いて、シミュレーションで劣化傾向音と電力設備の電気的ノイズを再現し、VAE-DEを評価した。その結果、稼働音から機器の劣化状態を推定した「劣化推定値」と、実際の機器の劣化状況を示す「劣化傾向」の相関係数が、0.144から0.905と大きく向上した。これにより、VAE-DEを用いてノイズによる誤検知を抑えつつ、劣化を高精度に推定できることが分かった。
VAE-DEにより、劣化状態を機器の稼働音から検知して、機器ごとに適切なタイミングで保守、メンテナンスできるようになる。同社は、開発したAI技術をまず電源設備の冷却ファンに適用し、次いで、工場設備などで長期間連続運転するその他の機器にも同技術の適用範囲を広げていく。
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