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なぜ電子音源が“生”の音を奏でるのか、ヤマハの歴史が生んだ新しいピアノ小寺信良が見た革新製品の舞台裏(23)(2/4 ページ)

音の問題などで家でピアノを弾きづらい場合、練習用に電子ピアノを使うことがある。だが、やはり生楽器とは音もタッチ感も違ってしまう点がもどかしく感じる人もいるだろう。その中で、ヤマハが発表したサイレントピアノのシリーズとして「トランスアコースティックピアノ」は、電子でありながら”生ピアノ”に近づける工夫が幾つも施されている点で注目だ。

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「強さ」と「速さ」をセンシング

―― ヤマハさんは「アバングランド」というシリーズもありますよね。これは何が違うんでしょうか。

細谷 こちらは同じように生ピアノのハンマーアクション機構を内蔵しておりますが、ボディー内には弦が貼られていません。従ってトランスアコースティックピアノよりもコンパクトで、最初から電子音源をスピーカーで鳴らすというコンセプトの製品になります。

―― どれも生ピアノのハンマーアクションを採用したということで、やはり鍵盤のタッチが生ピアノじゃないとダメだというユーザーのニーズに応えた製品群かと思います。実際、ハンマーで弦を叩く直前で止めてしまっても、タッチは変わらないものなんでしょうか。

太田 はい。アコースティックピアノと同じ感覚で演奏を楽しめます。

 当社の消音システムは、鍵盤からリリースされたハンマーの動きを、弦をたたく直前で「ハンマーシャンクストッパー」でストップさせます。そのストッパーのわずかな厚みの分だけハンマーの可動域が少なくなります。それによって鍵盤のタッチが変わることを防ぐため、「クイックエスケープ方式」という機構を採用して、演奏感が本来の弦を打っているときと変わらないように工夫をしています。


ハンマーの動きを打弦する直前で止める[クリックして拡大] 出所:ヤマハ

―― なるほど。では音が出るまでのプロセスを順番に伺っていきたいんですが、まず鍵盤が押された状況をセンシングしないといけないですよね。これはどういった手法なんでしょうか。

細谷 ここが2022年8月に発表させていただいた新ラインアップの特徴になります。今までは、光のセンサーを使っていました。グレースケールと呼ばれる黒い濃淡のグラデーションがあるフィルムを88個の鍵盤の下に一つ一つ付けて、光の透過量をセンシングしていました。

 鍵盤の深さに応じて光の透過量が変わりますので、どの位置でどれくらいの速さ、強さかがわかるわけです。タッチに影響させないということで、こうした非接触型の仕組みが必要なんです。

 それに加えて、グランドピアノタイプのものでは、ハンマーが弦に当たる直前のスピード情報も検出しています。これも光センサーですが、どれぐらいの強さ、速さで弾いたかという情報が得られます。


グランドタイプでは、ハンマーの速度もセンシングしている[クリックして拡大] 出所:ヤマハ

 今回の新ラインアップは、鍵盤のほうに新開発の電磁誘導式のセンサーを導入しまして、より正確に演奏情報を検出できるようになりました。鍵盤側とベース側にそれぞれコイルを付けて、電圧をかけておきます。鍵盤が押されて2つのコイルが近づくと、磁気的に干渉が起こって電圧が下がります。この情報から、コイル同士の距離を算出します。


鍵盤側のセンサーを新開発の電磁誘導式に変更[クリックして拡大] 出所:ヤマハ

―― 先ほど「どれぐらいの強さで、どれぐらい速く」というお話しがありましたが、ハンマーアクションにおける強さと速さは、同じではないんですか。

太田 ピアニストは強さと速さを使い分けて表現します。ハンマーのスピードは同じでも、鍵盤の弾き方によって音色が変わります。一例ですが、鍵盤を加速させるようにぐっと押し込んだときと、スタッカートのように切れ味よく、スピーディーに弾いたときでは違います。ピアニストの繊細な表現に応えられるようにするため、そういった微妙な音色の変化にも対応できるようにしています。

―― あ、なるほど。速いけど強く弾いてないっていうこともあるか。等速か加速して弾くかでも違うと。

太田 その通りです。ハンマーのスピードは同じでも、ピアノの筐体全体への振動の伝わり方は変わってきます。

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