絞り込まれてきたイプシロン6号機打上失敗の要因、イプシロンSやH3への影響は:宇宙開発(5/5 ページ)
2022年10月12日のイプシロン6号機の打ち上げ失敗は、H-IIAロケット6号機以来、じつに19年ぶりに日本の基幹ロケットの打ち上げで起こった失敗になる。この約1カ月間の調査を経て、その要因はかなり絞り込まれてきた。今後の日本のロケット打ち上げプロジェクトにどのような影響が起こり得るかも含めて解説する。
気になるのは今後のロケット打ち上げへのさまざまな影響
イプシロン6号機は、もともと強化型の最終号機であったため、同型機の打ち上げはもうない。そういう意味では、今後の強化型への直接的な影響は考えなくてよいのだが、類似した技術を使う他のロケット、つまり現在運用中のH-IIAや、開発中のH3、イプシロンSなどへの影響については、慎重に見ていく必要がある。
このうち、H-IIAについては、第2段RCSで同じようにパイロ弁が使われているが、イプシロンとはメーカーが異なることが分かっている。まだパイロ弁が原因と特定されたわけではないものの、今のところ影響はほとんどないと考えられる。
後継となるイプシロンSは、第2段にあまり大きな変更はなく、同型のパイロ弁をそのまま使う方針だったが、まだ基本設計フェーズの段階であるため、時間的な余裕が十分ある。それよりも喫緊の問題は、初号機の打ち上げが間近に迫ったH3への影響があるのかどうか、ということだ。
H3も第2段にRCSを搭載しており、イプシロンとRCSメーカーは異なるものの、パイロ弁は、同じメーカーの別製品が使われていることが分かった。今後の調査結果に影響を受けるところではあるが、引き続き、影響の有無の確認を進めるという。打ち上げまでの時間的な余裕がなく、やや気掛かりなところだ。
イプシロンSについては、技術的な影響よりも、ビジネス的な影響の方が大きいかもしれない。イプシロンSは今後、打ち上げ事業を民間に移管する予定。今回は、イプシロンとしては初めて商業衛星を搭載しており、今後の需要拡大が期待される小型衛星の打ち上げ市場に対し、本格参入に向けた試金石となるはずだった。
もちろん失敗はしない方がよいのだが、それにしてもタイミングとしては最悪である。ただ、本当に重要になってくるのは、これからの対応だろう。
もし今回の失敗の原因が、簡単なミスや技術力の低下などではなく、合理的に納得できるものであることが判明し、その上でしっかりと対策を打ち立てることができれば、悪影響は最小に抑えることができるだろう。イプシロンの顧客となる世界の衛星事業者は、そこを見ているはずだ。
筆者プロフィール
大塚 実(おおつか みのる)
PC、ロボット、宇宙開発、VR/メタバースなど技術系の分野を幅広く執筆しているテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。三度の飯よりプログラミングが好きな体質のため、隙あらばエンジニア仕事も引き受けている。宇宙作家クラブに所属。Twitterアカウントは@ots_min
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