インダストリー4.0がもたらしたもの、デジタル化に伴う製造業の構造変化:インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略(1)(4/5 ページ)
インダストリー4.0に象徴されるデジタル技術を基盤としたデータによる変革は、製造業に大きな変化をもたらしつつある。本連載では、これらを土台とした「インダストリー5.0」の世界でもたらされる製造業の構造変化と取りうる戦略について解説する。第1回は、前提となるインダストリー4.0のインパクトについて解説する。
ラインビルダーの衝撃、新興企業追従の立役者
インダストリー4.0をはじめモノづくりのデジタル化や複雑化が進む中で、ラインビルダーの存在感がグローバルで高まっている。ラインビルダーとは、製造ライン構想からエンジニアリング、機器選定、据付、試運転、従業員教育、メンテナンスまでを一括供給する外部企業を指す。実際に製造ライン構想/導入において、欧米や中国、さらには新興国ではラインビルダーを活用して製造ラインを構築することが一般的となってきている。
製造業では、ラインビルダーを活用することで、グローバル標準の先端製造ラインを導入できる。中国を含む新興国企業の急速なキャッチアップの背景には、これらラインビルダーの存在が大きい。ラインビルダーでは、企業とライン開発を行う際にその構築ノウハウを標準化し、標準メニューとして開発する。そして、それを他社へ横展開を行うことでビジネスを拡大する。新興国企業としては、ラインビルダーが先端企業と共同開発した標準メニューを活用することで、製造ラインのノウハウを迅速に調達することができるのだ。
ただし、その流れ自体にも変化が生まれてきている。従来は欧米などの先進国企業から、中国を含む新興国企業へ技術やノウハウを移転する一方通行の流れとなっていたが、先端的なライン技術開発が中国や新興国企業で行われるようになり、その技術やノウハウを先進国企業が逆に調達するといった動きも生まれており、双方向化している。
欧米や新興国企業としては、ラインビルダーを活用することによるコア技術の流出よりも「ラインビルダーを活用しないリスク」の方が重要であると捉えているようだ。自社で生産技術を独自開発し、リソースを抱えている間に陳腐化してしまうリスクを背負うのであれば、ラインビルダーを通じて先端の技術を取り入れ、その分のリソースを他の競争領域に集中投下して差別化を図ることがより戦略的だとの判断である。もちろん全ての工程でラインビルダーを活用しているわけではなく、自社で賄う競争領域とラインビルダーなどを活用する非競争領域を振り分けた上で、コアとなる工程は自社で磨き上げる考えだ。グローバルでのラインビルダーの大手企業としては、ドイツのデュルやフランスのフィブ、イタリアのコマウ、カナダのATSオートメーション、日立製作所が買収した米国のJRオートメーションなどがある。
一方で、日本においては、製造業が自社で抱える生産技術部門が強く、自社内で構想設計などを実施し、スコープを絞り込んだ上で生産設備SIerと呼ばれる企業に依頼をするケースが多かった。その結果として、平田機工や三洋機工といった一部メガラインビルダーを除き、特定の領域での小規模な生産設備SIer企業が多く存在している構図となっている。
日本企業においては従来の内製志向から、ラインビルダーの活用を通じて競争領域と協調領域の振り分けを行う構造にシフトし、自らの強みをとがらせるとともに、自社の強みである生産技術や現場技術を生かしたラインビルダー展開も期待される。先述した通り、米国のJRオートメーションを買収しラインビルディング事業に本格参入した日立製作所が好例だといえる。デジタル技術や外部企業の活用により、技術の「調達」で製造業に参入する企業が出てくる中で、日本企業の生産技術や現場力は外部に売れるソリューションとなるからだ。ラインビルダーという存在を契機に日本のモノづくり企業が競争力を発揮していくことを期待したい。
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