ロボカップ7年ぶり優勝の要因は、コロナ禍も乗り越えたCIT Brainsの挑戦:組み込み開発 インタビュー(2/2 ページ)
3年ぶりのリアル会場での開催となったロボカップの世界大会「Robocup 2022」。このRobocup 2022において、ヒューマノイドロボットで行われるキッドサイズリーグで優勝したのが千葉工業大学の有志メンバーを中心とするチーム「CIT Brains」だ。2014〜2015年連覇から7年ぶりの優勝はどのようにして実現したのだろうか。
「Jetson Xavier NX」の搭載で認識速度が安定
ロボットを自律移動させるとともに、サッカーボールやゴール、周囲のロボットなどを検知してシュートやパスを行うためにはアルゴリズムが重要な役割を果たす。CIT Brainsでは、ロボットの認識、戦略、行動計画、歩行制御のそれぞれにアルゴリズムを適用しており、これらをロボット内部で遅滞なく実行するには制御ボードに一定の性能も求められる。
CIT Brainsは、ロボカップを連覇した機体「Accelite」の時代からNVIDIAの組み込みAI(人工知能)ボード「Jetson TX1」を採用しており、GankenKunでも「Jetson TX2」を用いていた。しかし、SUSTAINA-OPを安定的に稼働させるためには、Jetson TX2よりも処理性能の高い制御ボードが必要になることが見込まれた。
そこでJetson TX2の後継モデルとなる「Jetson Xavier NX」をCIT Brainsに提供したのが技術商社のマクニカだ。2021年末には予備機を含めた7体分のJetson Xavier NXが用意され、CIT BrainsのSUSTAINA-OPの開発を進める原動力の一つになった。林原氏は「従来は認識速度が7fps程度だったが、Jetson Xavier NXに替えることで10fpsを安定して出せるようになった」と説明する。
SUSTAINA-OPの開発は順調に進み、メカニズム、プログラム、アルゴリズム、電気回路をはじめ全ての要素でボトルネックとなるものを解消し、Robocup 2022に臨むこととなった。開催期間の2022年7月11〜16日のうち、準備が2日間あり、残りの4日間で予選リーグと決勝トーナメントを戦うことになる。
ロボット競技会では、実際の試合となる予選リーグと決勝トーナメントに目が行きがちだが、実は準備の2日間で何をやるかが勝敗の分かれ目になる。CIT Brainsは、試合会場の写真をさまざまな角度から総計で約1万8000枚を撮影。これらの写真データを基に、試合会場の環境に合わせた最適な認識のアルゴリズムを構築するためのアノテーションや学習は日本にいるチームメンバーが夜を徹して行ったという。そして、予選リーグと決勝トーナメント合わせた9試合に臨み優勝することができた。優勝に加えて、9試合で47回の転倒があったものの動作不良を起こさず、SUSTAINA-OPのコンセプトを実証できたことも大きな成果だったといえるだろう。
認識だけでなく戦略や行動計画もAIベースのアルゴリズムに
AI開発で大きな存在感を発揮しているNVIDIAのGPUだが、今回のRobocup 2022でJetson TX2やJetson Xavier NXを採用しているチームはあまり多くなかったという。「これまでx86ベースで機体の制御を行ってきたチームにとって継続性を考えると、ArmベースCPUを用いるJetsonに置き換えるのは難しいのかもしれない」(林原氏)。CIT Brainsも、Jetson Xavier NXを導入する際には消費電力の調整が課題になったという。
CIT Brainsでは既に来年の「Robocup 2023」に向けた開発活動が始まっている。林原氏は「AIベースのアルゴリズムを用いているのは認識だけだが、これをこれまでルールベースだった戦略や行動計画のアルゴリズムにも適用したい。そういった意味で、より高い性能を持つ制御ボードが必要であり、Jetson Xavier NXの後継モデルとなる『Jetson Orin NX』の高い計算能力には興味がある」と述べている。
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