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「この痕は?」「治具は問題ない?」中国人技術リーダーの迷答は自己判断が原因リモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(7)(2/4 ページ)

中国ビジネスにおける筆者の実体験を交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する連載。第7回は、自分で考えられる範囲での最善の回答をしようとする、自己判断がとても強い中国人技術リーダーとのやりとりで生じた困ったエピソードを2つ紹介する。

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2時間かけて訪問し、たった5分の打ち合わせ

 このような技術リーダーのいいかげんな回答は、中国での一般的な仕事でもよくあることだ。別のエピソードを紹介する。

 筆者が中国駐在中に、ある治具を中国の部品メーカーに作製してもらったときのことだ。その部品メーカーを訪問して打ち合わせを行い、治具を作製しようということになった。作製期間の1カ月が過ぎ、訪問前日に治具ができているかの確認のため電話をしたところ、この部品を担当する技術リーダーからは「問題ない」との回答があった。

 筆者の事務所のある上海からこの部品メーカーのある蘇州までは、クルマで約2時間の道のりである。部品メーカーに到着し、会議室に通された。すると、数分後にA4の用紙を1枚持った中国人技術リーダーが現れたのだ。この人は日本語がとても上手だったので、筆者とは日本語通訳を介さないで仕事をしていた。しかし、その顔はどこか申し訳なさそうにしていた。

 技術リーダーは、A4の用紙をテーブルにひらりと置き、「今、ここまでできている」と言ったのだ。そのA4の用紙の真ん中あたりには、治具のイラストが小さく描いてある。どうやら3D CADで描いたものをプリントアウトしたようだ。

A4の用紙の真ん中に小さく描いた治具のイラスト
図5 A4の用紙の真ん中に小さく描いた治具のイラスト[クリックで拡大]

 「治具は?」と質問すると、「今はこのイラストしかない」と彼は言う。つまり、何もできていなかったのだ……。

 技術リーダーは「治具担当は『問題ない』と言った」と弁明し、謝るそぶりを全く見せない。イラストならメールで送ってもらえば十分に確認できる。筆者はあきれてしまうと同時に、かなり怒ってしまった。しかし、できていなければどうしようもない。打ち合わせは5分で終わり、また2時間かけて上海まで戻ることになった。

 この前日の技術リーダーとの電話の内容は次の通りである。

筆者 治具はできていますか?

技術 ちょっと待って、確認します。

技術リーダーが治具担当に大声で確認している声が電話越しに聞こえる――。

技術 治具はできている?

担当 問題ないです!

その後、技術リーダーは電話で次のように言った――。

技術 問題ない、できている。明日の確認は大丈夫!

※「技術」とは「技術リーダー」のことだ。

 こうして、筆者は安心して次の日に訪問することになったのだ。しかし、その結果は前述のありさまであった。この技術リーダーは治具担当の「問題ないです!」の言葉を、「治具そのものができている」と自己判断していたのであった(しかし、治具担当の「問題ない」は、何が問題なかったのかはよく分からない……)。

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