「この痕は?」「治具は問題ない?」中国人技術リーダーの迷答は自己判断が原因:リモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(7)(1/4 ページ)
中国ビジネスにおける筆者の実体験を交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する連載。第7回は、自分で考えられる範囲での最善の回答をしようとする、自己判断がとても強い中国人技術リーダーとのやりとりで生じた困ったエピソードを2つ紹介する。
中国人は、自己主張や自己判断がとても強い人種といえる。自己判断とは「自分で考えられる範囲での最善の回答」ができることであり、決して悪いわけではない。しかし、時として日本人はその回答を聞いて、「ちゃんと確認した結果の回答ですか?」と思ってしまうときがある。今回はこれに関連する2つのエピソードを紹介する。
プロジェクターの鏡筒表面に付いた痕
筆者が中国駐在中に、日本の設計者が設計したプロジェクターの鏡筒を、中国の部品メーカーで作製していたときのことである。ダイキャストの金型の作製は終えており、その後工程である旋盤の切削加工とアルマイト処理の出来具合を確認する段階であった。アルマイト処理とは、鏡筒を黒くメッキするようなものと考えていただきたい(ただし、メッキではない)。
筆者は中国の部品メーカーを訪問し、まず工場内のダイキャスト→旋盤加工→アルマイト処理の工程を確認して回った。この工程の順番が、この後の内容で重要になるので覚えておいていただきたい。
工場内の工程確認を終えた後、中国人の技術リーダーが最新のサンプルを5個持ってきた。そのサンプルを詳細に確認すると、鏡筒表面の体裁面に3カ所、2mm大くらいの痕(あと)が付いていたのである。よく見ないと分からないレベルではあるが、5個のサンプル全てにこの痕が付いていた。
この痕はもちろん容認できるレベルではなかったので、技術リーダーにその痕が付いた原因を聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。
旋盤加工のときに、この部品をチャックする必要がる。そのときにチャックの痕が付いたのだと思う。量産では大丈夫!
筆者は、彼の言っていることが完全に間違っていることを指摘した。その理由は、この痕はアルマイト処置の後の工程で付いたのは見た目で明らかであり、アルマイト処理の後工程に旋盤加工はないからである。それを指摘すると、「あー、そっか。その通りです」と言い、続けて、次のように回答したのだ。
旋盤加工のチャックの先端に油が付いており、その接触した部分のみアルマイトが十分にのらなかった。
筆者は工場内の工程確認の際に、旋盤加工でのチャックの様子を写真に撮っていた。その写真では、鏡筒の内側からチャックしていたのであった。よって、もちろん鏡筒の表面に痕が付くことはあり得ないのだ。
写真を見せながら、そのことを指摘すると「おー! 確かにそうです」と言い、また違う説明を始めたのであった……。その中国人技術リーダーは全く製造現場を把握していないのだ。この人は初めて会った人でもあり、今回の筆者の訪問の対応からこの部品の業務を任されたのかもしれない。
要するに、工程内容を把握していなかったその技術リーダーは、自分の持っている知識をフル稼働させた自己判断で回答していたのであった。こう書くと、そんなに悪くないようにも思われるが、自分が知らないのであれば、ちゃんと確認してから回答してほしいところだ。結局、中国人技術リーダーはその後も的の外れた回答を続けたため、訪問時間がなくなってしまい、次回の訪問までに原因を調べておくようにと依頼することになった。
原因は、次回の訪問時に明らかになった。アルマイト処理では、部品をアルマイト溶液の入った槽に出し入れするが、そのときに鏡筒の表面をつかんでしまっていたのであった。これはアルマイト処理をする部品にはよくあることで、部品を引っ掛ける穴をあらかじめ作製しておくこともある。まだ試作の段階であったので、鏡筒のつかみ方まで考えてはいなかったのだ。
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