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マルチキャリアSIMで拡大する「エリアカバレッジ」と「グローバル展開」徹底解説!IoTビジネスを進化させるマルチキャリアSIM(2)(2/2 ページ)

製造業が注目するIoTをつなぐ上で不可欠な技術になりつつあるのがモバイルネットワークだ。本連載はこのモバイルネットワークの領域で注目を集めている「マルチキャリアSIM」について解説する。第2回は、マルチキャリアSIMのより具体的なユースケースについて紹介し、その導入メリットを掘り下げる。

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グローバルで調達から管理/運用まで一元対応

 グローバルなユースケースでは、IoTの先進領域ともいえるビルメンテナンスの事業者が、国内と海外の両方で広くマルチキャリアSIMを活用して自社サービスの強化につなげた例なども出てきている。

 この事業者はこれまで、国内のビル設備の監視や点検作業などをリモートで行うためにシングルキャリアSIMを利用していた。しかし、ビルの立地や設備の設置場所によっては使用しているキャリアの電波が非常に弱く、そうしたケースでは固定回線を引いて対応しなければならなかった。ただし、固定回線によるネットワーク環境の整備はビルメンテナンスサービスを利用する顧客企業側に手配してもらわなければならないため、サービスの導入ハードルが上がってしまうことになる。そこでマルチキャリアSIMを採用することで、ユーザーに負担をかけない形でネットワークの一元的な管理/運用と通信の安定性の両立を実現したのだ。

 ここまでは、先述した太陽光発電事業者のケースと課題も得られたメリットも似ているといえるだろう。このビルメンテナンス事業者が異なるのは、グローバルの事業展開にもマルチキャリアSIMを活用した点にある。国内だけでなく海外でも同様の事業を展開していたことから、同時にグローバルでの調達/管理も一元化して業務負荷やコストの網羅的な最適化を図ったのだ。

グローバルでSIMの調達/設定から管理/運用まで一元化
グローバルでSIMの調達/設定から管理/運用まで一元化[クリックで拡大]

 それまで海外でのネットワーク環境整備に当たっては、現地キャリアのSIMを調達してモバイルネットワークを活用していたが、そのハンドリングに手間とコストがかかるのが課題だった。現地でSIMを購入してデバイスに挿入し、設定を済ませなければ、電波強度や接続のしやすさが分からないという問題は、事業展開をスムーズに進める上でのリスクになってしまう。

 そこでマルチキャリアSIMを使えば、デバイスのキッティングから通信確認まで日本国内で行い、現地にはSIMを挿入済みのデバイスを運搬して設置するだけですぐに通信できるようにすることも理論上は可能だ。同社も含め、マルチキャリアSIMを手掛けるNTTPCと共同で検証を行い、実際にそうした体制が機能することを確認した上で本格的なグローバル展開を進める事業者も出てきている。

 また、前回も触れた通り、マルチキャリアSIMには国内外を問わずVPNを利用できるサービスがあるが、NTTPCのサービスも同様の特徴を持ち、これによって海外でもセキュアな通信を実現できる。つまり、日本国内で導入しているサービスの活用範囲をグローバルにも広げた形になるため、ネットワークの監視/運用の仕組みをグローバルで一元化することにもつながり、海外でのスピーディーなビジネスの成長に貢献できるといえるだろう。

通信料だけでなくトータルコストに目を向けるべき

 今回紹介した2つの事例も含めて、現時点でのマルチキャリアSIMの用途は、総じて低容量の監視/測定データの通信が多い。これも前回触れたが、NTTPCを含めて国際ローミングを使っているマルチキャリアSIMは、シングルキャリアSIMと比べて一般的に通信単価は高い。しかし、シングルキャリアSIMが定額課金であることが多いのに対して、マルチキャリアSIMは従量課金が基本であるため、低容量のデータ通信が主な用途である場合はマルチキャリアSIMの方がコスト的に有利になるケースもある。こうした特徴をうまく利用するIoT事業者が増えている印象だ。

 ただし一口にコストと言っても、通信料だけでなく運用も含めて考える必要がある。とりわけグローバルにIoTの仕組みを展開する場合は慎重な検討が必要だ。海外でモバイルネットワークを使う場合、通信料そのものを最小化することを目的としているのであれば、現地でSIMを調達するのは当然のことだろう。しかし、日本企業がグローバルにIoTデバイスの設置を広げていく場合、現地にわざわざ人を派遣して、調達や設定、現地担当者への引き渡しまで担わせるとなると、通信料以外のコストが跳ね上がる。

 さらに、国と地域ごとに個別のモバイルネットワークサービスを使うとなると、ネットワーク全体の管理/運用の負荷も大きくなる。通信料だけで比べると割高になる国があるとしても、マルチキャリアSIMの導入によりグローバルに配置している全てのIoTデバイスのネットワークを1つのコンソール上でコントロールできるようにすれば、トータルコストを下げられる場合も多いはずだ。



 最終回にあたる次回は、マルチキャリアSIMの導入を検討するユーザーが考慮すべきポイントをさらに深掘りして解説するとともに、今後マルチキャリアSIMやモバイルネットワークの市場がどう動いていくのか考察する。

筆者プロフィール

斉藤 暁子(さいとう あきこ) 株式会社NTTPCコミュニケーションズ サービスクリエーション本部 第二サービスクリエーション部 サービスクリエーション担当 担当課長

インターネットタイプの「InfoSphereモバイル」やセキュアなVPNモバイルの「Master'sONEモバイル」など、人向けからIoT/M2M向けまで、幅広いラインアップを提供するNTTPCの法人向けモバイルサービスを統括。

株式会社NTTPCコミュニケーションズ IoT/M2M向けモバイルサービス https://www.nttpc.co.jp/sim/

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