失敗事例から学ぶ! 3D CADから始めるデジタルエンジニアリング:デジタルエンジニアの重要性と育成のコツ(2)(2/2 ページ)
現代のモノづくりにおいて、3D CADやCAE、CAM、3Dプリンタや3Dスキャナーといったデジタル技術の活用は欠かせない。だが、これらを単に使いこなしているだけではデジタル技術を活用した“真の価値”は発揮できない。必要なのは、デジタル技術を活用し、QCDの向上を図り、安全で魅力ある製品を創り出せる「デジタルエンジニア」の存在だ。連載第2回は「失敗事例から学ぶ! 3D CADから始めるデジタルエンジニアリング」をテーマにお届けする。
3D CADの操作習得だけでは進まないデジタルエンジニアリング
3D CADで自社の製品の3Dデータが作成できるようになれば、デジタルエンジニアリングが成功するかというと、そんなに甘くはありません。3D CADを自由自在に操作できるようになり、設計段階における事前検証の精度が上がることで、QCD(品質、コスト、納期)の向上を図ることができますが、“真のデジタルエンジニアリング”とはいえません。
真のデジタルエンジニアリングを実現するためには、従来の業務プロセスを変えていく必要があります。“従来の業務プロセスを変える”とはどういうことでしょうか。失敗事例としてよく聞くのが、「苦労して設計現場に3D CADを導入したが、他部門は2D図面を中心とした業務がメインであるため、結局、2D図面も作成しなければならない……」というケースです。
設計者は3Dデータを作成し、さらに2D図面も用意しなければならないため、3D CAD導入によって業務が楽になるどころか、かえって工数が増えてしまいます。その結果、設計現場が完全に疲弊してしまい、結局2D CADに戻ってしまうという現場も少なくありません。
もちろん、今すぐ完全に2D図面をなくすことは難しいですが、3D CAD導入を機に、“3Dデータを正”として2D図面は簡易的なものに留めるなど、従来の業務プロセス/運用ルールを変えていく必要があります。3Dデータを正とし、設計を含めたさまざまな業務プロセスで3Dデータを活用することで、さまざまなメリットを享受できます。以下にその一例を示します。
- 生産技術部門:治具製作や組み立て検証に3Dデータを活用できる
- 加工部門:CAMでNCデータを作成できる
- 検査部門:3Dスキャナーの活用で自動検査が行える
社内や関連会社での業務プロセスを変えていくためには、3D CADのスキルだけを持っている人が先頭に立って進めてもうまくいきません。全体の調整をできる人が必要です。よくある失敗事例として「3D推進ということで、若手設計者を業務プロセス改革の担当に据えたものの、社内調整ができずに3Dデータ活用が一向に進まない……」というケースがみられます。
若い人材に活躍してもらいたいという気持ちも分かりますが、3Dデータ活用を全社展開する場合、“各部門の事情”を考慮せずに進めてしまうと反発が起きてしまい話が進みません。各部門の事情を考慮しながら対話できる人材が必要であるため、経験豊富な設計のマネジャークラスの人をリーダーとして、あるいはアドバイザーとして迎え入れ、プロジェクトチームを立ち上げるべきです。また、各部門から代表者を選出してプロジェクトチームを結成して進めていくのもよいでしょう。
3Dデータの全社活用を進めていく場合、各部門の事情を踏まえた上で、どのように業務プロセスを変えていくかを考える必要があります。ただ実際のところ、その過程において“全く負荷なく”というのは正直難しく、多少の負荷が発生してしまうことは仕方ありません。そのため、関係部門と変革後のメリットを共有し、理解を得た上で取り組む必要があります。
その際、他部門を説得するのは簡単なことではありません。経営層からのトップダウンの指示が必要となります。設計部門からのボトムアップで進めていく場合でも経営層の理解を得ながら、経営層にも関与してもらうことで円滑に進めていきやすくなります。経営層の理解を得るためには、3Dデータを活用したデジタルエンジニアリングの実現によってどのようなメリットが得られるのか、企業が掲げる経営戦略にどのようなプラスの効果をもたらすのかをしっかりと伝え、賛同を得なければなりません。
設計部門における3D CAD導入/3Dデータ活用は、設計業務の効率化や品質向上などのメリットが得られますが、それだけにとどめるのではなく、部門や業務プロセスをまたいで全社で3Dデータを活用していくことで、全体最適化が図れ、そして、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現につなげることができます。なぜ取り組むのか、最終的にどのような成果を得たいのか、経営層を含め全社で目的とゴールを共有し、一丸となってデジタルエンジニアリングの実現を目指してください。
3D CADが“核”であり、必要とされるデジタルエンジニア
今回は3D CADの使い方や機能紹介ではなく、社内での3D CAD導入/3Dデータ活用の進め方にフォーカスしました。ただ、どんなに良い構想やスケジュールが作れたとしても、最終的に3Dデータが作れるようにならなければ、絵に描いた餅で終わってしまいます。
3Dデータを作成し、活用できるデジタルエンジニアは必要不可欠な人材です。3Dデータ活用の全体像を理解して社内展開できるリーダー、3Dデータを作成できるスペシャリスト、CAE(解析)のスペシャリストなど、リーダーの育成と各3D技術のスペシャリストの育成を行っていきましょう。
人材育成で重要なことは、3D CADを学習できる環境や時間、機会を与えてあげる他、モチベーション管理が必要です。人事考課制度や社内の認定制度を作るなど、きちんと評価にもつなげるべきです。
3D CADを使える人材が増えることが、社内のデジタルエンジニアリングを加速させます。理想通りには行かないこともあると思いますが、適宜、軌道修正しながら、真のデジタルエンジニアリングに向けて取り組んでください。本連載がその一助になれば幸いです。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
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