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スタートアップによる新株予約権の発行量はどう定めるべきかスタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(13)(1/3 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第12回はスタートアップに対して行うM&Aの留意点について総論的に解説を行う。

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はじめに

 前回は、スタートアップへの投資を行う際の株主間契約の主たる留意点をご紹介しました。今回はその後編となる内容に加えて、スタートアップに対して行うM&Aの留意点を総論的に紹介します。

※)なお、本記事における意見は、筆者の個人的な意見であり、所属団体や関与するプロジェクトなどの意見を代表するものではないことを念のため付言します。

新株等引受権の発行枠を設定する

新株等引受権の付与

 スタートアップは、EXITまでの間に複数回資金調達を繰り返します。このため、各ラウンドで追加出資をしない限り、既存株主の持株比率は低下してしまいます(希釈化)。しかし、初期のラウンドで投資する投資家は、スタートアップの事業の先行きが見えづらい中でリスクをとって投資しており、リスクをとった投資家が自らの出資比率を維持する手段が確保されないことは不合理です。

 そこで、新株などが発行される場合に、既存の投資家に対して自身の持株比率を維持するために必要な数の株式を優先的に引き受ける権利(新株等引受権※1)を付与することが一般的です。

※1:新株「等」としているのは、株式の発行のみならず、自己株式処分や新株予約権の発行もその対象に含める可能性があるからである。

 新株等引受権を行使する際の実際の手続としては、スタートアップが新たに株式を発行する際に既存の投資家に対して通知を行い、既存の投資家が引き受けを望むなら、その時点での持株比率に応じた割合で、新規の株式引き受けを認めるケースが多いでしょう。

新株予約権の発行目的

 上述の通り、新株予約権行使時の株式の交付で既存株主の持株比率は低下するため、新株予約権の発行は、投資家の事前承諾事項とされることが一般的です。しかし、スタートアップの立場から見ると、新株予約権の発行は資金調達の他、以下の目的でも使用されることがあります。

  • 優秀な人材の確保のための付与
  • (特に大学発スタートアップにおいて)ライセンス料や特許権の譲渡の対価の支払として

 人材確保については、例えば、大手企業などから中途採用でメンバーを迎える際、スタートアップのステージにもよりますが、資金力の問題から、前職と同等以上の現金による報酬の支払いが困難になりかねません。そこで、事業が成功した際には株式の価値が大きく上昇することを見込み、新株予約権を用いたストックオプションを報酬の支払いに用いることがあり得ます。この手法は、事業の成功と自身の報酬との間に強い相関関係が生まれるので、メンバーのインセンティブ確保という意味でも使い勝手のよい手法です。

 大学発スタートアップについても補足しましょう。東京大学発スタートアップのペプチドリームは、IPO時の「新株式発行並びに株式売出届出目論見書」(リンク先PDF)によると、東京大学から11件、ニューヨーク州立大学から2件の特許のライセンスを受けています。東京大学は上場前の持分比率が0.85%、ニューヨーク州立大学は0.14%で株主となっているため、ライセンスを受ける際に、一定数の新株予約権や株式でライセンスフィーを支払ったものと推測されます。

 このように新株予約権は資金力が大企業に比べて弱くなりがちなスタートアップとしては、必要な支出を補うための極めて重要な手段となります。

 そこで、一定の新株予約権の発行については、投資家の事前承諾なしにスタートアップが発行できると定められることがあります。この場合、事前承諾なしに発行できる新株予約権は、以下の観点から限定されることが多いです。

  • 発行数量上限(オプションプール)
  • 発行できる相手方(例:「発行会社またはその子会社の役員または従業員、もしくは外部アドバイザー」※2
  • 発行の目的(例:「インセンティブプランとして」)
  • ストックオプションの行使価額の下限(例:「直近の株式発行価額を下回らない」など※3

※2:桃尾・松尾・難波法律事務所(編)角元洋利=山口敏寛=鳥飼雅夫(編著)『ベンチャー企業による資金調達の法務』(商事法務、2019年)147頁

※3:宍戸善一=ベンチャー・ロー・フォーラム『スタートアップ投資契約 モデル契約と解説』(商事法務、2020年)160頁

 まず、発行数量上限について見ましょう。完全希釈化ベース※4で計算された株式保有割合の10%程度となることが多いですが、15%程度、まれに20%程度に設定されることもあります※5。どの程度の数字が適切かは事案で異なると思われますが、相場の数値だけで枠を定めることは避けるべきでしょう。

※4:現に発行済みの株式のみならず、新株予約権など、一定の条件を満たせば普通株式に転換されるものが全て普通株式に転換されたと仮定した状態。

※5:桃尾・松尾・難波法律事務所(編)角元洋利=山口敏寛=鳥飼雅夫(編著)『ベンチャー企業による資金調達の法務』(商事法務、2019年)147〜148頁

 例えば大学発スタートアップのように、大学などから特許の独占的なライセンスを受け、または特許権そのものの譲渡を受ける場合、頭金やランニングロイヤルティーなどで多額の費用を支払う必要に迫られます。非独占的通常実施権ではなく、専用実施権や特許権そのものの譲渡を受けるなど、スタートアップによる独占実施が確保できる形でライセンスを受けるため、ライセンス料が高くなりがちだからです。有望な人材の獲得だけでなく、ライセンス料支払いに活用する分も考慮に入れて発行上限数を定めるべきでしょう※6

※6:なお、独占実施を確保することの重要性について、東証マザーズのWebサイトでは「上場審査に関するQ&A」では、「上場に際しては、原則として、当該知的財産権を保有先から譲り受け、自社で保有することが望まれます」との記載があった。

 発行の相手や目的についても、大学などへのライセンス料などの支払いのために新株予約権を用いる可能性がある場合、相手方の情報や目的が漏れないように規定する必要があります。

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