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スタートアップによる新株予約権の発行量はどう定めるべきかスタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(13)(2/3 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第12回はスタートアップに対して行うM&Aの留意点について総論的に解説を行う。

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投資家のリターンを確保する

投資家の同時売却請求権(ドラッグ・アロング・ライト)

 スタートアップはIPOまたはM&Aを目指していきますが、M&Aの場合、買収側企業は当該スタートアップの全株式を取得する形でM&Aを望むことが多くあります※7。そのため、M&Aを希望する買収候補者が現れた場合、反対する株主がいてもEXITの機会を逸しないよう、全株式を譲渡できるようにすることが重要です。そこで、同時売却請求権を定める必要があります。

※7:その理由としては、税務上の問題(小川周哉=竹内信記=荒井悦久『スタートアップ投資ガイドブック』(日経BP、2019年、218頁)や、買収後に一部既存株主が残存し当該株主への対応が必要になることを避けるため(宍戸善一=ベンチャー・ロー・フォーラム『スタートアップ投資契約 モデル契約と解説』(商事法務、2020年、186頁)などが考えられる。

 同時売却請求権とは、一定の要件を満たした株主が所有する株式を第三者に譲渡する際、他の株主に対し、当該株主が保有する株式も合わせて売却するよう請求することができる権利であり、ドラッグ・アロング・ライトとも呼ばれます。

 このように、一部の株主の意向にかかわらず、売却を強制する強い効果を有する権利であるため、同時売却請求権を設定する場合には、その行使の要件をいかに設定するかが問題となります。同時売却請求権が発動する場面は、M&Aによるリターンが得られる場合、かつ、少なくとも当該リターンに満足している投資家が存在する場合です。このため、投資家間で利害が対立するケースは多くないと考えられます。

 しかし、例えばM&AではなくIPOを目指す場合には、創業者と投資家の利害が対立し得るでしょう。そこで、実務上は、投資家の過半数の承諾だけでなく、創業者などの承諾がある場合に行使できるよう設計することもあります。

 また、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の場合、競合他社にM&Aをされることを懸念することもあり得ます。かかる場合には、売却先をあらかじめ制限しておく他、期間や金額による制限がありえます※8

※8:例えば、時期については、目標時期までにIPOが行われなかった場合に 限り強制売却権を発動できるとする、投資家であるファンドの満期を踏まえた一定時期以降に限り同権利を発動できるとするものなどが考えられる。金額については、M&A実行時に想定される発行会社の時価総額が一定以上の場合に限り、強制売却権を発動できるようにするなどが考えられる(桃尾・松尾・難波法律事務所(編)角元洋利=山口敏寛=鳥飼雅夫(編著)『ベンチャー企業による資金調達の法務』(商事法務、2019年、159頁)。

投資家による株式譲渡

 創業者などの株主とは異なり、投資家がその保有株式を第三者に譲渡する場合は、投資のリターンを得る機会を確保すべく、制約を設けないのが一般的です。

 もっとも、例えば創業者側から見ると自社のコンペティターへの譲渡は避けたいでしょう。CVCとしても、(その母体となる)事業会社の競合他社に譲渡されては困ります。そのため、投資家による株式の譲渡を原則自由としつつも、一定の相手方への譲渡を禁止することもありえます。

みなし清算条項

 優先株の留意点の解説回でもご紹介しましたが、残余財産の優先分配とは、本来は会社を清算する場合の規定です。しかし、想定より低いバリュエーションでのスタートアップのM&Aにおける不公平を解消するべく、M&Aを清算と見なすことで、売却された場合に、その対価が残余財産分配の規定に従い分配されるようにすることが可能となります(みなし清算)。定款におけるみなし清算条項の有効性に疑義がある場合、株主間契約において定款におけるみなし清算条項と同様の内容を規定し得ることに留意すべきでしょう。

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