今が復活のラストチャンス、日本政府が進める半導体産業戦略:モノづくり最前線レポート
日本ケイデンス・デザイン・システムズでは2022年7月15日に、「CadenceLIVE Japan 2022」を横浜ベイホテル東急で開催し、新製品の技術アップデートやユーザー事例の紹介などが行われた。本稿では、経済産業省 デバイス・半導体戦略室長 荻野洋平氏による招待講演の模様を紹介する。
日本ケイデンス・デザイン・システムズは2022年7月15日、横浜市内でユーザーイベント「CadenceLIVE Japan 2022」を開催し、新製品の技術アップデートやユーザー事例を紹介した。
本稿では、同イベントで行われた、経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 デバイス・半導体戦略室長の荻野洋平氏による日本の半導体、デジタル産業戦略に関する招待講演の模様を紹介する。
半導体の重要性はエネルギーや食料と同等
経済産業省は2021年に「半導体・デジタル産業戦略」を発表するなど、日本の半導体産業の復権に積極的に動いている。その背景を荻野氏は「デジタル基盤、そのための半導体がなければ、経済成長、社会生活などあらゆることができない。半導体は、エネルギーや食料と同様にそれがなければ社会が立ち行かなくなるものと捉えなおした」と語る。
半導体産業に力を入れているのは日本だけではない。米国では2022年7月27日、約500億ドルの刺激策を含む半導体業界の支援法案「CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors) Act」が上院を通過した。世界的な潮流となったカーボンニュートラルの実現に向けてDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるためにもデジタル基盤は不可欠だ。荻野氏は「これまで先進国は比較的大規模な産業政策が取りづらかった。それがコロナ禍以降、産業政策を転換している」と変化を語る。
かつて日本企業は世界の半導体シェアの半分を占めるなど力を誇示したが、その後はシェアの減少に歯止めがかからなくなった。同時期、家電などの最終製品においても日本企業の競争力は低下していった。荻野氏は過去の日米半導体協定などを挙げながら、「日本企業が国内でやっていきやすい環境を作れたかというと、経済産業省としては反省しなくてはならない。また、世界的にはグローバルなオープンイノベーションが進んでいった一方で、日本の中で閉じて資本を集めて対応しようとした」と話す。
適切なパートナー、同盟国との協力不可欠
そういった中で、経済産業省ではIoT(モノのインターネット)用半導体生産基盤の緊急強化、日米連携による次世代半導体技術基盤、グローバル連携による将来技術基盤という3つのステップを基本戦略として進めている。「いずれも日本だけで行うのは不可能な時代。それぞれの領域において適切なパートナー、同盟国と組むのが基本的な戦略だ」(荻野氏)。
ステップ1については、台湾のTSMCがソニー、デンソーと共に工場を建設することが決まっており、経済産業省は最大4760億円を助成する。荻野氏は「この工場では12nmのロジック半導体を作れることになった。他方で、世界は1桁nmに入ろうとしており、最先端から見れば少し前の技術。ただ、今からチャレンジをするのかどうかは大きな境目になる。今が、ビヨンド2nmといったさらなる微細化に取り組むラストチャンスではないか」と述べる。
2022年5月11日には、重要物質のサプライチェーン強化などを目的とした経済安全保障推進法が国会で成立した。これに合わせて、レガシー半導体やその製造装置、素材などに関しても何らかの支援措置を検討していくという。
今後、世界のデータ流通量は大きな拡大が見込まれており、大量のデータを日々処理する次世代計算基盤が重要になる。これを支えるのは、高速かつ低消費電力な最先端の半導体だ。日米は次世代半導体の共同開発を進めていくことで合意している。「これが日本にあるのか、海外から持ってきて使わせてもらうのかは大きな違いになる。日本が先進国として引き続き発展していこうと思えば、技術としてもモノとしても国内にある状態が不可欠だ」(荻野氏)。
その他、荻野氏は日本国内におけるデータセンターの拡充や地方拡散、デジタル産業人材育成への取り組みなどについても講演した。
なお、CadenceLIVE Japan 2022のオンデマンド特設サイトが2022年8月上旬に公開される予定で、荻野氏の講演も視聴可能となっている。
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