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“つながるモノづくり”目指すIVIの次なる挑戦、カーボンニュートラル推進のカギFAインタビュー(3/3 ページ)

IoTやAI技術などを活用した新たなモノづくりの在り方が広がる中、製造現場の課題を起点とし、「つながる工場」実現に向け2015年からさまざまな活動を続けてきたのがIndustrial Value Chain Initiative(IVI)だ。製造業が取り組まなければならない課題は山積する中、IVIではどのように捉えているのだろうか。ここ7年の製造業の変遷とIVIの取り組み、今後の展望について、IVI 理事長の西岡靖之氏に聞いた。

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カーボンニュートラル化で「つながる」範囲も拡大

MONOist 「つながる」範囲も徐々に変化があります。

西岡氏 最初は設備のデータをつなげて保全に使うような話が中心だったが、予防保全や品質向上に活用するような動きに広がってきた。品質向上に活用するためには、1つの設備のデータだけでは難しいので複数の設備や機械のデータを連携させる必要が生まれてきた。それをさらに、工場内のさまざまなデータや、企業活動におけるデータと連携させる動きや、設計データとの連携などを進める動きも出てきた。モノづくりにおけるデータの水平連携と垂直連携という方向性だ。さらに社内間だけでなく企業間や業界間のデータ連携が必要な状況にもなってきており、つながる範囲はどんどん広がっている。こうした変化に合わせてIVIも取り組みを進化させている。

 現在でいうとカーボンニュートラル化の動きは特に企業間で「つながる」ことが求められる領域だ。IVIでも2022年7月にカーボンニュートラルに向けたタスクフォースを設置し、工場のレファレンスアーキテクチャの提案や、ベストプラクティスの抽出などを行う取り組みを開始している。

 GHG(温室効果ガス)プロトコルのスコープ3基準でのカーボンニュートラル化が求められるようになり、製品のバリューチェーン全体の排出量が評価されるようになっている。また、現状は推計値での集計が中心だが、実測値での集計へとシフトする動きが出ている。その場合、製造ラインから直接温室効果ガスの排出量データを取るような動きも進む。どのような形が正解なのか詳細まではまだ分からない面もあるが、少なくともこうしたデータを共有するためにつながる下準備が必要になる。こうした情報の整理に、従来の現場起点のボトムアップ型アプローチで取り組む。

 つながる範囲が広がってくると技術的な面だけではなく、組織的な問題なども非常に大きくなってくるが、スマートシンキングは、そうした組織的な面も含めて「つながる」を進めていくための課題と解決の方法などを明確にするためにまとめたという面もある。守るべき情報を秘匿しつつ、共有すべきところを切り分けて運用できるようなノウハウも蓄積してきた。

 また、企業間のデータ連携を実現するツールとしてもCIOFが貢献する。CIOFは「辞書」「契約」「認証」という3つの仕組みを組み合わせ、ある程度安全にそれぞれのデータ提供者同士の情報のやりとりが行える仕組みだ。個別環境における情報をデータで表現するための「辞書」を用意し、個別の環境で使用できるように“翻訳”して使用。「共通辞書」と「個別辞書」を持つことで、データ連携が行える一方で、「契約」でそれぞれの環境における最適な形を管理しながらデータを活用できる仕組みとしている。大きな仕組みは不要で中小企業や現場レベルでも活用できるという点が特徴だ。

 もちろん、高度な安全性が要求されるデータ連携では難しいかもしれないが、カーボンニュートラル推進などの中、あらゆるものがつながることを求められる現状では、草の根的なデータ共有の仕組みとして一定の役割を果たすと考えている。

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CIOFのアーキテクチャ構成[クリックで拡大] 出所:IVI

CIOFは3年以内に企業としてビジネス展開へ

MONOist CIOFの現状をどう見ていますか。

西岡氏 2022年4月にリリースし、既に約20社がトライアルを進めているところだ。実際に取り組むと企業間でのデータを連携させる経験が担当者にない場合も多く、大変さがある。ただ、契約書ベースで進めていくよりも負担は軽減できている。現状では基本パッケージとして、設備メーカーがエンドユーザー企業に収めた設備のリモート診断を行うというシナリオでのデータ連携の仕組みを提供しているが、実際の現場で動かしながら成果や活用方法などを探り出している。

 CIOFを利用するためのソフトウェアは2022年4月に設立したCIOFパートナーズから提供されているが、今はリモート保守に関するアプリケーションが多い。また、データ連携を行うための辞書データについては設備メーカーがパートナーとなり用意するような動きになっている。2022年度はパートナーがさまざまな開発を行う支援を進めていく。今後は2024年度までに500社のパートナー企業の参加を見込んでいる。2023年度からはアジアを中心に海外展開を進め、500社の内1割は海外企業になる想定だ。

 また、CIOFは今はIVIが幹事として推進しているが、今後を見据えると企業化していくことも計画している。2024年度をめどに企業体としてビジネス展開を進める体制へとシフトさせていきたい。

 そのためにはキラーアプリを生み出すことが重要だ。在庫管理などのこれがあれば便利になるという改善系か、カーボンニュートラルのように情報を出すことで信頼を獲得し新たなビジネスを獲得できるような新規ビジネス系の2つの方向性で効果的なアプリケーションを生み出せるようにしていく。

エコシステムとして価値を回す

MONOist 今後の抱負を教えてください。

西岡氏 2022年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と経済活動の両立への動きも見えつつあり、モードが変わる1年となるとみている。IVIとしてもこれまでの活動の成果を生かしたスマートシンキングやCIOFなどを形にしてきたが、定着させることができなければ、実行力のない団体となってしまう。データ連携による「つながる」を実現するための仕掛けづくりとともに、これらをエコシステムとしてしっかり回すことを完成させる。さまざまな現場の課題解決を実現し、企業間を結び付け、価値を回せる世界を実現したい。当初から訴えてきたボトムアップアプローチや“ゆるやかな標準”なども具体的な仕掛けとして作り上げることができてきた。これらをしっかり成果に結びつけることに力を注ぐ。

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