フレーム問題解決の糸口に? 不確実な環境下で最適な判断下すAI開発:人工知能ニュース(2/2 ページ)
グリッドは2022年7月28日、AIの学習手法であるアンサンブル学習と深層強化学習を組み合わせることで、不確実性の高い環境下で、従来手法より最適な判断が下せるAIの開発に成功したと発表した。同研究成果は、米国物理学協会の学術誌「Jornal of Renewable and Suitainable Energy」にも掲載された。
送配電行動の最適化を検証
発表した論文では、送電網と太陽光パネル、電力を消費する家屋、バッテリーで構成される電力システムにおける送配電行動の最適化を取り上げている。送電網や太陽光パネルからバッテリーに電力が送られ、家庭で消費される「電力購入」と、太陽光パネルによる発電分を送電網に送り、家庭ではバッテリーに蓄電した電力を消費する「電力売却」の2パターンから、電力需要に応じて最適な行動をAIに選択させる。
ただし電力購入と売却に当たっては、1日の終わりにバッテリーの充電レベルを前日の水準まで戻すこと、といった制約条件をAIに課した。さらに、時間経過によって天候は変化し日射量も変わり、季節の寒暖差で家庭での電力消費量も変化する設定とした。日射量の変動は太陽光パネルの発電量に影響を与える。こうした条件下でAIは、適切な電力購入/売却の行動を通じて、可能な限り電力購入コストを抑えつつ、電力需要を満たすことを目指す。なお、電力購入/売却の意思決定は30分ごとに行う設定とした。
AIの学習に当たっては、用意した電力需要や発電量の膨大なデータを基に複数シナリオを作成し、複数のモデルに学ばせるという方法をとった。
論文では2種類の性能検証を行った。1つ目は、制約条件を実際に守ることができるかという検証である。1年分のデータを使い、深層強化学習で作成したAIモデルの行動と比較した。するとアンサンブル学習のモデルでは、深層強化学習と比べ、バッテリー残量を1日の終わりに前日終わりの水準にまで戻せたケースが多いということが分かった。
2つ目は収益の安定性の検証である。1年分の未知のデータを用いて確認したところ、アンサンブル学習のモデルでは安定して高利益を出せたという。
グリッドは今回の論文でテーマとした問題設定は、AI開発における難問である「フレーム問題」にも重なり得るとしている。フレーム問題は、処理能力に限りのあるAIが、不確定要素の多い現実問題に対処することが難しいということを表す。これらはAIが判断に先立ち、考慮すべき要素について厳密な評価を行ることで生じると考えられる。曽我部氏は今回の研究が、「フレーム問題を全て解決できるというものではないが、AI自身が未知の状況を自ら判断しながら意思決定していくことにつながるのではないか」と説明する。
また、今回の技術の社会実装に向け、曽我部氏は「現実の社会は、売る/買うのようなシンプルな行動や制約条件では対応しきれない、複雑なものとなっている。今回発表した技術を基に、いかに制約条件が多くとも対応できるよう、技術的に規模をスケールさせていきたい」と語った。
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