モノづくりの技術で農業を変える、デンソーが進める食分野事業とは:スマートアグリ(2/2 ページ)
生産から流通、消費に至るまで、デンソーが食分野への事業展開を強化している。2022年7月6日にオンラインで報道陣向けに開かれた説明会において、デンソー フードバリューチェーン事業推進部 フードバリューチェーン事業戦略室長の清水修氏は「自動車領域で培ったカイゼンや環境制御、自動化などの技術をフードバリューチェーンに展開したい」と意気込む。
ラストワンマイルに小型モバイル冷凍機で対応
食の流通現場の改革も推進する。コロナ禍でフードデリバリーやECが普及し、配送の在り方が変わろうとしている。これまでもカーエアコンや商用車向けの冷凍機を手掛けてきたデンソーは、2021年にヤマト運輸と共同でわずか5kgの小型モバイル冷凍機「D-mobico(ディーモビコ)」を開発した。清水氏はその狙いを「集団から個へ価値観の中心が変化していく中で、個の配送へのニーズが多様化し、ラストワンマイルに対する要求が急速に増加している。これまでの概念を変え、トラックで効率的かつ大量に運ぶのではなく、個に適切な渡し方をする必要がある」と語る。D-mobicoは小型で電源があればどこでも使えるため、配送手段も変化する。「ワンボックス型の軽自動車でも運べる。従来とドライバーが変わる」(同氏)。
また、自動車産業で培ったトレーサビリティーの意識を持ち込もうとしている。目指すのは産地から消費者までの情報の一元化だ。2022年に、農林水産省の「令和4年度食品等流通持続化モデル総合対策事業」に参画し、QRコードやRFIDを使って産地から販売店まで確実に情報をトレースできるシステムを作ろうとしている。同年、アサリの産地偽装問題が起きた熊本県と「くまもとの食の流通管理システム構築等に向けた覚書」を締結、6月11日から実際にシステムが稼働しており、「かなり喜ばれている」と評価は上々という。
2022年には定款の事業目的に農業を追加した。「何とかめどが立ってきた。それなら、本気でやるということを伝えよう」(清水氏)という意思の表れだ。デンソーは2030年までに非自動車領域である農業、FA、物流の3分野で売上3000億円を目指している。具体的な数値は避けながらも清水氏は「既にかなりの売り上げは出ている。(FA、物流含めて)総合的に達成したい」と語る。
清水氏は2017年に新規事業推進部に配属されて現在に至る。直前まで農業大国オランダに駐在していたが、当時は自身が農業事業に携わることになるとは知る由もなく、「(農業現場を)見ておけばよかった」と苦笑する。
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