頼るべき“ルール”見えぬ脱炭素、国内製造業は立ち止まらずに進めるのか:製造業×脱炭素 インタビュー(3/3 ページ)
ここ最近、大手製造業各社が脱炭素に向けた挑戦的な目標設定を次々に打ち出している。一方で、「では実際に脱炭素を進めればいいのか」と悩む企業も少なくない。既存のGHG削減や省エネ化といった施策に加えて何をすべきなのか、そもそも業界共通の制度やルールづくりが進まない中、何をすればよいのか。脱炭素実現に向けた国内製造業の“現在地”について話を聞いた。
排出原単位に頼らない算定目指せ
MONOist 排出原単位に頼った算定方法は、限界があるということでしょうか。
小沢氏 そう思う。サプライヤーとコミュニケーションをとり、情報をより細かく取ることが大事だ。まずはサプライヤーに「具体的にどう測定しているのか」をヒアリングする必要がある。そうすれば今後、排出量削減に向けてサプライヤーに何を頼むかの指針固めが行える。
サプライヤー側の視点から見ると、今後はさまざまなメーカーから排出量削減の努力要請が寄せられ始める可能性がある。その時に備えて、スコープ1、2に関してはこういう考え方で、スコープ3に関しては経済産業省が公開している排出量原単位を用いて算出している、などとしっかり答えられるようにすることが望ましいだろう。加えて、自社内排出量の情報や、排出経路や仕組みの分析、排出量に関するデータ取得方法の整理を行っておく。削減に向けて、建屋や設備単位でCO2排出量を可視化する必要がある。
話がずれるが、先日、経済産業省とJPXがCO2排出量を取引する専用市場設置に向けた実証実験を行うと発表した。これが本格的に導入されれば、自社の排出量予測を参照しながら、排出枠の購入や売却を行うことになる。そうすると、排出枠取引の価格変動次第で、「調達コストは安く済むが、排出量は多いサプライヤーA社」よりも「調達コストは高いが、排出量は抑えられるサプライヤーB社」から買う方が結果として得になるという可能性が出てくる。サプライヤーはこうした動向も注視しながら、備えを進めるべきだ。
達成に向けてワーキンググループ組成を
MONOist 先ほど組織づくりに関して、「誰がボールを持つか」という話が出ました。どのような組織体制で脱炭素を推進するべきだと考えますか。
小沢氏 現状は環境部門や生産企画部門が主導する流れだが、それではうまくいかないと思う。本来的には、購買部門、生産部門、営業部門、総務部門など全ての部署部門からメンバーを集めて、ワーキンググループを構成することが望ましい。さらにワーキンググループに専任リーダーを置き、役員直轄組織とすることで社内に力を利かせられるようにすべきだ。
原材料のCO2排出量をしっかり調べたい、情報収集が必要だ、となった場合を考えよう。現状、調達業務はサプライチェーンの混乱で原材料調達が困難になり、通常業務に忙殺されている。この中で購買部門に調査指示を出しても、調査の優先順位は低く見積もられてしまい、最悪、断られかねない。だからこそ、強いガバナンスを持つ構造づくりで改革を進められるようにすべきだ。
MONOist 従来の環境部門はどういう役割を担うことになるでしょうか。
小沢氏 これまで環境部門は温対法や省エネ法の細かい部分まで社内で推進していく役割を担っていた。今後は、生産部門や販売部門の活動支援が大事になる。現在、多くの人はCO2排出量の可視化に注目して進めているが、いずれは削減に向けた具体的なアクションプランを社内や販売先に説明していく必要がある。CO2排出量をモニタリングして、生産販売目標数を念頭に現実的な排出量削減策を考える、といった形で支援していくこともできるのではないか。
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