中外製薬がバイオ医薬品工場を公開、市場拡大見越して設備投資着々:工場ニュース(2/2 ページ)
中外製薬は6月3日、宇都宮工場のバーチャル見学会を開催。同社の主力製品のリウマチ治療薬「アクテムラ」や血友病治療薬「ヘムライブラ」の生産工程の一部が公開された。また、今後予定されている設備投資などにも言及した。【修正あり】
拡大するバイオ医薬品市場、新たな製造棟も開設へ
バイオ医薬品の市場規模は年々高まっている上、医薬品市場全体に占める比率も拡大しており、引き続き高成長が見込まれている。一方で、技術革新による収率の向上、希少疾患向け医薬品の増加などを背景に、従来の2万〜2万5000lのステンレス製タンクなど大規模設備を用いた大量生産から、より小規模な生産設備を活用した多品種少量生産が進行。その中で進む取り組みがシングルユースだ。
シングルユースとは、プラスチックバックを用いた1回使い切りの生産設備で、培養に用いるステンレス製タンクの毎回の洗浄、滅菌が不要となり省エネルギーに貢献する。中外製薬でも東京都北区にある浮間工場で導入している。
質疑応答ではシングルユースによって出るプラスチックごみについて質問も出た。「課題意識を持っているが、トータルでの影響を考えるとシングルユースの方が地球環境に優しいというレポートもある。われわれとしても、さらにできることがないかを考えている」(中外製薬 執行役員 製薬本部長 兼 中外製薬工業 代表取締役社長の田熊晋也氏)。
新たな設備投資も行われており、低中分子合成医薬品を製造する藤枝工場(静岡県藤枝市)では臨床試験用原薬の製造棟となるFJ2を総投資額191億円で建設し、2022年12月に稼働予定となっている。加えて、後期臨床試験用原薬の製造と上市後の初期生産を担うFJ3も総投資額555億円で建設し、2025年3月に稼働する見通し。浮間工場でも初期開発用治験薬を製造する新たなバイオ原薬製造棟UK4を総投資額121憶円で建て、2024年1月稼働を予定している。UK4にもシングルユース設備が導入される。
2020〜2021年にかけて後発医薬品メーカーを中心に医薬品製造の品質不正が相次ぎ発覚したことが大きな社会問題になった。「同じ業界で働くものとして遺憾に思う。しっかりと取り組まなければいけないと気を引き締めている。人は間違いを起こす可能性があるので、それを極力減らすシステムを作る。そのシステムを全員が順守するクオリティカルチャーを醸成する。そして、トップの覚悟の3点が重要だと考える」と田熊氏は語った。
中外製薬工業 浮間工場長の愛波曜氏も「デジタル技術によって原材料の選択や秤量を間違えるとすぐに分かる仕組みようになっており、品質試験のデータも変えることができない。そういったミスが起こらない、できないシステムの立ち上げを行ってきた」と話した。
【訂正】初出時のタイトルに一部分かりにくい表現がありましたので、変更しました。(編集部/2022年6月9日午後6時50分)
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