タンパク質の構造解析をAWSでクラウド化、膨大な計算も約7倍高速に:製造IT導入事例(2/2 ページ)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)は2022年5月25日、高エネルギー加速器研究機構(KEK)とAWSのサービスを活用して構築した、タンパク質の構造解析を行うためのクラウドプラットフォーム「GoToCloud」についての説明会を開催した。さらに、AWSとKEKの間で、「GoToCloud」の今後の展開を見据えた連携強化を図っていくと発表した。
トータルコストは約60%削減
そこでKEKではAWSによるサポートを受けつつ、GoToCloudを構築した。クライオ電子顕微鏡から出力された測定データをオンプレミスのGPUボックスで処理を行い、その後必要に応じてAWSの各種サービスで構築されたクラウド環境に送信し、手動での解析計算を行えるようにした。
クライオ電子顕微鏡などの画像解析ソフトウェア「Relion」を用いて単粒子解析を行った場合、AWS使用時は1構造当たり約5万円と、オンプレミスでGPUボックスと比べて、トータルコストを約60%削減できたという。また、全計算工程の65%以上を占める主要工程の「3D Refinement」については、AWSを利用することで約7倍の計算速度を達成したとする。
千田氏はAWSのサービスを採用した理由について「豊富なコンピュータリソースに加えて、セキュリティ対策もあり、課金制度も明確だ。AWSは研究のDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する知見も有しており、コストパフォーマンスが高い」と語った。
現時点では、クライオ電子顕微鏡から取得したデータセットの高分解能の構造解析は自動化が難しく、手動で実施している。千田氏は「2年後を目標に構造スクリーニング自体を自動化し、6年後には未知構造でも構造解析が行えるようにしたい」と語った。また、GoToCloud上での構造解析も、数年後には1構造当たり2万円で行えるようにすると目標を掲げた。
さらに、KEKとAWSはタンパク質の構造解析に関するクラウド技術の活用に関して、2022年4月から2027年3月までの約5年間を契約期間とする覚書を締結した。AWSはアプリケーションのプロトアイピングサービスを提供する他、研究コミュニティーの支援、海外機関への情報発信機械提供などの面で支援を行うとしている。
千田氏は、クラウドをハブにして国内のクライオ電子顕微鏡を相互につなぐことも可能になるとして「全国の研究機関などから集まった画像データをアノテーションしてビッグデータを作成すれば、機械学習を通じたデータ解析の自動化につながる。AWSにはプロトタイプ開発支援や機械学習、量子コンピューティングによる解析時間の短縮といった点で支援してもらえればと思う」と構想を語った。
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