モノだけじゃなく工具も足りない製造業、今後のサプライチェーンの見通しは:サプライチェーン改革
半導体や樹脂の供給不足、そしてアルミニウムや銅などの高騰。製造業の目の前には今、部材や材料を巡る深刻な問題が山積みだ。製造業に電子部品や工業用部品などを供給するサプライヤー側は、行く先をどのように見通しているのだろうか。製造業向けに部品のWeb販売を行うアールエスコンポーネンツ 代表取締役に話を聞いた。
半導体や樹脂の供給不足、そしてアルミニウムや銅などの高騰。製造業の目の前には今、部材や材料を巡る深刻な問題が山積している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に加え、最近ではロシアによるウクライナ侵攻がこうした状況に多大な影響を与えており、問題は一朝一夕に解決しそうにはない。
製造業に電子部品や工業用部品などを供給するサプライヤー側は、行く先をどのように見通しているのだろうか。製造業向けに部品のWeb販売を行うアールエスコンポーネンツ 代表取締役の春原守利氏に話を聞いた。
電子/工業用部品を1点から出荷
MONOist 電子部品や工業用部品など幅広い製品を販売されています。
春原守利氏(以下、春原氏) 当社はWeb販売を中心とした事業を展開している。グローバルでは2500社のサプライヤーによる約65万点の商品を、国内では約12万点の商品を常時そろえている。1点からの注文にも対応でき、国内に在庫があれば、18時までの注文で当日内の出荷が可能だ。海外在庫の場合は4日程度で出荷できる。昨今のサプライヤーの供給状況から、注文から到着までのリードタイムが通常より伸びてしまうケースもあるが、常にマーケットの状況を見つつ、代替案の提示などを行っている。
競合のディストリビューターには、電子部品か工業用部品かのどちらかにフォーカスした事業展開を行う企業も多い。一方、当社は両分野に対応できるのが大きな強みだ。「1点から即日出荷」を実践する企業は他にもあるが、単価が安い製品もあるため、どちらの製品分野でも実施するのはハードルが高い。電子部品や工業用部品だけでなく、消耗部品も幅広くラインアップしており、研究開発から量産、修理や保守などのアフターサービスまで、エンジニアリングチェーン全般で求められる商品を提供できる。
2022年3月期の業績は設立以来最高の売り上げを達成し、特にエレクトロニクス分野が成長した。インダストリアル分野の利益も伸びており、今後は自動車や半導体分野へのIIoT(産業向けIoT)展開を加速したい。
連鎖するモノ不足
MONOist 現在のいわゆる「モノ不足」や原材料の価格高騰といった問題をどのように捉えていますか。
春原氏 状況が流動的なため厳密に言うことは難しいが、今から注文すると納期がかなり先になる品薄状態の商品は、当社で扱うものの中にも幾つかある。顧客の手元に確実に製品を届けることを第一に考えているが、昨今はウクライナ問題で航空便の確保が難しく、4日以上かかる商品もある。
あらゆる部材、工具が不足している状況だ。実需要に即してではなく、需要を超える在庫数を確保しようと大量発注を行う企業がいることも一因だろう。
例えば、2021年に当社で一番販売金額の大きかったカテゴリーはコネクターやパワーマネジメント製品群だが、製品別に見ると圧着工具が一番金額が大きかった。一見すると電子部品の需給に関係ないような工具すら在庫が少なくなっている。当社では、こうした製品の需要をプライベートブランド製品群である「RS Pro」で代替提案する取り組みも進めている。
電子部品の不足に伴って関連製品も品薄になり、さらに多くの製造機械を求める動きが生じて工具も不足するというモノ不足の連鎖が起こっている。複数の商社を経由して発注するメーカーも多く、商社側も自社の受注状況を参考にするだけではリードタイムを確定しづらいという問題がある。そうした状況をメーカー側が不安に感じ、さらに別の商社にも発注するという流れも生じているようだ。
原材料高騰が進めば調達も不透明に
MONOist ウクライナ問題の影響はどう見ていますか。
春原氏 現時点では商品の調達納期が遅れる程度で済んでいる。だが、将来的には調達コスト自体が上昇するだろう。これまで直通で輸送できた商品を、複数の輸送機関を乗り継いで代替しなければならないからだ。現時点では航空会社の切り替えで対応できているが、将来的にどうなるか分からない。
当社はグローバルに商品調達を行っているが、中にはボリュームメリットの観点から国内企業の製品を大量発注しているものもある。こうした製品は国外輸入から国内調達に切り替えやすい。ただ、部材の原材料費高騰が商品のさらなる品薄状態を招けば、状況も変わるだろう。
MONOist 半導体不足への影響も懸念されます。
春原氏 半導体不足がより長期化する恐れがある。当社もマーケティングチームによる調査や顧客からのヒアリングを通じて状況把握に努めている。多少の誤差はあるだろうが、2022年内は不足状況が続くだろう。2021年に問題が顕在化した頃は、誰もこれほど長期化すると考えていなかったと思う。
当社でも納期や代替製品に関する問い合わせを多く受けている。サプライチェーン対策として、国内調達で対応可能なものはその体制を継続しつつ、グローバルで在庫を確保し、在庫の大幅な積み増しを進めるとともに、サプライヤーと在庫状況に関して情報共有を行っている。国内法規制に適合する製品のみの調達だが、こうした体制がコロナ禍でも顧客に製品を提供する体制づくりに寄与したと考える。
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