サプライヤー数は“トヨタ越え”、シーメンスが挑む6万社超のCO2排出量削減:海外事例で考える「脱炭素×製造業」の未来(3)(4/4 ページ)
国内製造業は本当に脱炭素を実現できるのか――。この問いに対して、本連載では国内製造業がとるべき行動を、海外先進事例をもとに検討していきます。第3回は幅広い分野で製品、ソリューションを展開するシーメンスを取り上げ、6万5000社を超えるサプライヤーにどのように脱炭素の取り組みを働きかけているのかを解説します。
世界中のサプライヤーと共存共栄を目指す
サプライヤー側から見ればシーメンスは得意先であり、(言ってしまえば)「上客」です。そのため案件の提案機会を常に探っています。またサプライヤーの営業活動で、必ずしも適切な部門、職位の担当者に提案ができるとは限りません。また、シーメンスはさまざまなオープンイノベーション施策を取っていますが、サプライヤーの技術力も最大限活用するため、サプライヤーが新技術を提案できるポータルサイト「Siemens Supplier Innovation Platform」を開設しています。
サプライヤーは自社技術の概要に加えて、シーメンス製品/サービスの何を改善するかを登録します。構想段階の技術、プロトタイプ中の技術など、未成熟な技術も登録可能です。幅広いアイデアを社外から収集し、技術開発の初期段階からサプライヤーと協働する入り口を、地域や言語に制約の少ないポータルサイトとして準備しています。このことは、公正、公平な取引の実現という観点からも注目すべきことです。
提出された新技術は、30万人のシーメンス従業員が閲覧できます。サプライヤーが登録した技術カテゴリーに応じて対象部門に通知が飛び、関心のある従業員が内容を確認して5段階で評価し、より詳細を知りたい場合はサプライヤーと直接メッセージでやりとりすることが可能です。サプライヤー側からは評価内容や閲覧回数を確認できるという、相互に利点のある仕組みとなっています。シーメンスの「サプライヤーとの共存共栄」「脱炭素はエコシステム全体で取り組む」という意思が細部にまで行き届いていると分かります。
脱炭素は“団体戦”
シーメンスの取り組みから国内製造業が学べるポイントは、以下のようにまとめられるでしょう。
- 脱炭素はサプライヤーを巻き込んだ団体戦。協力会社と一緒に利益を上げる
- マネジメント層は、サプライヤーのCO2排出量削減を自社事として捉える
- サプライヤーへのCO2排出量調査は段階的に実施。回答しやすい質問で調査のハードルを下げる
- CO2排出量削減のノウハウをITツールで開示し、自走を促す。また自社の脱炭素ソリューション活用を提案する
- 調達部門への要望は増加の一途、ITを活用した業務改善を推進すべき
お読みいただいた皆さまに、日本全体の脱炭素推進に少しでも役立つ内容だと感じていただければ幸いです。次回もシーメンスを取り上げ、顧客企業のCO2排出量削減にどう貢献しているかを紹介します。
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