サプライヤー数は“トヨタ越え”、シーメンスが挑む6万社超のCO2排出量削減:海外事例で考える「脱炭素×製造業」の未来(3)(3/4 ページ)
国内製造業は本当に脱炭素を実現できるのか――。この問いに対して、本連載では国内製造業がとるべき行動を、海外先進事例をもとに検討していきます。第3回は幅広い分野で製品、ソリューションを展開するシーメンスを取り上げ、6万5000社を超えるサプライヤーにどのように脱炭素の取り組みを働きかけているのかを解説します。
エコシステム全体で脱炭素に取り組む
評価ツールからの提出内容を受け、シーメンスが各サプライヤーとCO2排出の削減量と達成時期、また、その実現計画を個別に合意していきます。このような取り組みは決して珍しいことではありません。米国の小売最大手ウォルマートはサプライヤーにCO2排出削減のノウハウを動画や資料で共有し、世界自然保護基金(WWF)などと共同開発したオープンソースのツールキットを提供し、サプライヤーがCO2排出量を簡単に計測する環境を整備しています。
脱炭素は本来、多様なステークホルダーを巻き込まないと成果の実現、さらには取り組みの実行すらままなりません。自社だけで何ができるか考えるのではなく、エコシステムとして共創する視点が必要です。自社で利益を独占せず、サプライヤーをはじめ協力会社と一緒になって利益を上げ、適切な配分で持続可能なエコシステムを作ることが必要です。
ITを活用したサプライヤーとの関係強化
ただし、エコシステム構築に取り掛かる前に、自社の調達業務がどれだけ成熟しているかを振り返る必要があります。スコープ3削減に向けた実務は、企業のサステナビリティ部門より、調達部門が担うことが多いからです。
震災やパンデミックなど有事の際でも供給を止めないこと、サプライチェーンの透明性を開示すること、児童労働をさせないこと、知的財産権を守った製品を供給してもらうこと、紛争鉱物を扱わないこと……。さらには調達プロセスで汚職や贈収賄をしないことを担保するための業務、公平性の観点から相見積もりをとるなど、BCP(事業継続計画)やSDGsに関する要求事項は年々増えている印象です。企業の調達部門だけが対応するには負荷が高すぎるので、サプライヤーポータルなどITで業務効率化を図ろうとするのは自然な流れといえるでしょう。
シーメンスの場合、「SCM STAR」というポータルサイトを準備し、サプライヤー情報の登録、与信管理、比較購買、発注書の発行から請求書の受領までの一連の調達業務がポータル上で完結するようにしています。ちなみに、同ポータルとCO2排出の評価ツールは別システムとして運用しています。サプライヤーとの単一窓口を志向しつつ、CO2排出量を可視化する高度な機能が他社で提供されていればそれを活用するという方針で、柔軟性を持ったIT戦略を展開しています。
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