音振動とは? 現象もモデリング方法も多種多様、まずは振動の基本から学ぶ:1Dモデリングの勘所(6)(4/4 ページ)
「1Dモデリング」に関する連載。今回(連載第6回)と次回で「音振動」のモデリングを扱う。今回は、振動に着目することにし、最も身近な振動現象を提供している“振り子”を例に振動の基本を学ぶ。続いて、振動の「1Dモデリング」の最も一般的な方法である「MCKモデリング」とその解法について紹介する。最後に、MCKモデルを用いた自励振動問題を扱う。
MCKモデル
最も簡単な振動系は、質量(m)とばね(k)からなる「MKモデル」である。振動モデリングの基本は、実際の構造物をどのようにしてMKモデルに落とし込む(低次元化モデリングする)かである。
図8にMKモデルの自由振動、すなわち「単振動」の定式化とその一般解を示す。単振動とは、ある時刻を経過すると元に戻る状態を意味し、この時間間隔を「周期」、周期の逆数を「固有振動数[rad/sec]」または「周波数[Hz]」と呼ぶ。
図8の単振動では、いったん振動するとその状態が理論的には無限に継続する。実際の構造物では、振動は時間とともに収束する。これは減衰要素が構造物に存在するからである。そこで、図8のモデルに「減衰(c)」を追加した図9に示すMCKモデルが振動モデルの基本形となる。図9に示すように減衰の大きさによって、減衰振動(時間とともに振動が小さくなる)、過減衰、臨界減衰(いずれも振動せずに減衰)となる。
図10のように、外部から力または変位が作用する場合を「強制振動」と呼ぶ。図10は、ばねおよび減衰の上端を変位で周期加振している様子を示す。この場合は解析的に解くことができ、質量(m)の振幅は、入力の加振周波数がMCK系の固有振動数に一致したときに最大となる。減衰がないと、この振幅は無限大となるが、減衰が存在するとある値に落ち着く。
自励振動
MCKモデルの応用例として、摩擦による自励振動、いわゆる「スティックスリップ現象」について考える。図11に示すように、MCKモデルを横に配置し、質量の下面をベルトで摺動しているとする。このとき、質量とベルトとの間には摩擦力が生じる。ここでは、動摩擦係数μを静摩擦係数μ0を用いて図11のように表現できるものとする(ここに、b>0)。
図11のように式を展開していくと、図9の減衰振動と同じ形式の式で表現できる。図9の減衰項に相当する項が図11の場合には条件によって符号が変わるということである。すなわち、質量がある一定値を超えると振動は周期的動作を繰り返しながら発散する。これが摩擦による自励振動である。弦楽器の音発生メカニズムは、この原理を応用したものである。もっとも、演奏者はこの原理を理解して演奏しているわけでなく、経験的にこのような状況を作り出しているということである。
次回は、振動のモデリングに関して、一般的な構造物をどのようにしてMCKモデルで表現するかを述べるとともに、音振動をエネルギーの流れで捉える方法についても紹介する。 (次回へ続く)
筆者プロフィール:
大富浩一(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。
- 研究会HP:https://1dcae.jp/
- 代表者アドレス:ohtomi@1dcae.jp
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 1Dモデリングの方法にもさまざまなアプローチがある
「1Dモデリング」に関する連載。連載第4回では、本題である1Dモデリングの方法を取り上げる。まず、1Dモデリングの方法には大きく「モデル生成」「低次元化モデリング」「類推モデリング」の3つのアプローチがあることを説明。特に本稿では1Dモデリング固有の考え方としての類推モデリングについて詳しく解説する。 - 0Dモデリングとは? 理論・経験に基づく理論式・経験則が究極の1Dモデリング!?
「1Dモデリング」に関する連載。連載第3回は、理論・経験に基づく理論式・経験則が究極の1Dモデリングであることを、0Dモデリングの定義、3Dモデリングとの関係、幾つかの事例を通して説明する。また、理論・理論式を考えるに当たって重要な“単位”に関して、なぜ単位が必要なのかその経緯も含めて紹介する。 - 1Dモデリングとは? モデリングをさまざまな視点から捉えることで考える
「1Dモデリング」に関する連載。連載第2回は、モデリングをその表現方法から2種類の“3つのモデリング”に分けて考える。次に1Dモデリングが必要となる背景について、1DCAEとMBDという2つの製品開発の考え方を紹介し、これらと1Dモデリングの関係を示す。さらに、リバース1DCAEと1DCAEを通して、より具体的に1Dモデリングのイメージを明らかにする。以上を通して、最後に“1Dモデリングとは”について考察する。 - モデリングとは何か? 設計プロセスと製品設計を通して考える
「1Dモデリング」に関する連載。連載第1回は、いきなり1Dモデリングの話に入るのではなく、そもそもモデリングとは何なのか? について考えることから始めたい。ものづくり(設計)のプロセス、製品そのものを構成する要因を分析することにより、モデリングとは何かを明らかにしていく。 - なぜ今デライトデザインなのか? ものづくりの歴史も振り返りながら考える
「デライトデザイン」について解説する連載。第1回では「なぜ今デライトデザインなのか?」について、ものづくりの変遷を通して考え、これに関する問題提起と、その解決策として“価値づくり”なるものを提案する。この価値を生み出す考え方、手法こそがデライトデザインなのである。 - デライトデザインとは? 3つのデザイン、類似の考え方を通して読み解く
「デライトデザイン」について解説する連載。第2回では、デライトデザインとは? について考える。まず、設計とデザインの違いについて触れ、ユーザーが製品に期待する3つの品質に基づくデザインの関係性にも言及する。さらにデライトデザインを実行する際に参考となる考え方や手法を紹介するとともに、DfXについて説明し、デライトデザインの実践に欠かせない要件を明確にする。