機械設備の高い信頼性なくして、高精度の生産管理は存在しない:生産性向上のもう一つのキモは、設備管理の徹底にあり(3)(4/4 ページ)
工場の自動化が進む中でより重要性を増している「設備管理」について解説する本連載。第3回は、機械設備の故障と信頼性について解説する。
4.機械設備の故障時間と故障の修復時間
4.1 MTBFとMTTR
(1)MTBF
MTBF(平均故障間隔時間:Mean Time Between Failures)は、機械設備が故障して、再び次に故障するまでの時間の平均値を表すものです。この値が大きくなれば機械設備の信頼性が高いことを意味します。MTBF(h)は、「(負荷時間−故障停止時間)÷故障停止回数」で算出します。
(2)MTTR
MTTR(Mean Time to Repair:平均故障修復時間)は、機械設備が故障し、修復した後、良品が生産開始されるまでに費やした故障修復時間の平均値を表すものです。この値が小さければ機械設備および保全作業者の保全性が高いことを意味しています。MTTR(h)は「修復時間÷故障停止回数」で算出します。
4.2 その他の設備保全の管理指標
機械設備の保全を計画的かつ確実に実施して機械設備の寿命を延ばして、保全費用の削減と生産性の向上を目標とする際には、収益性を高めるといった経営的な指標の管理も重要になります。そこで、信頼性や保全性以外の経済性指標についても説明しておきます。
(1)MTTF
MTTF(Mean Time to Failures:故障までの平均時間、平均故障寿命)は、機械設備を構成する各種部品の寿命の平均値を表すもので、ベアリングやセンサーなどの個々の部品が寿命によって使えなくなる平均時間のことをいいます。従って、この値が大きければ部品の寿命が長いことを意味します。この時間を把握することで、点検頻度や機構部品などの交換頻度の設定に役立てようとする考え方です。
(2)保全費用の内製化比率
保全費用の内製化比率は、機械設備の保全活動に費やす費用のうち、自社内の保全要員によって行われた保全活動に要した費用の割合を示したものです。自社内の保全力の強さを示す指標で、この指標が高ければ生産設備が突発的に故障したときにも迅速に対処することができるということです。また、計画的な保全活動が行われていることも意味しています。TPM(Total Productive Maintenance)の「自主保全体制の確立」に相通ずるものがあります。
(3)保全費用の原単位
保全費用の原単位は、機械設備の保全活動に要した費用を生産する製品の生産数量や生産高で除した値をいいます。この値は製品の原単位当たりの保全費用を示しています。この指標が低ければ、製品当たりに要する保全費用が安いために導人された機械設備の投資効率が高いことを意味しています。
◇ ◇ ◇ ◇
保全活動は、機械設備を切り口にした製造管理技術でもあります。例えば機械設備で品質を作り込むという考え方に立脚すれば、関連する生産要素を管理することによって、その出力結果である「品質(Quality)、原価(Cost)、納期(Delivery)」の水準を高めようとするものであるといえます。
機械設備の保全活動の実施が、具体的に生産の管理水準にどのような影響を及ぼしているかを調査した結果があります。生産の管理水準を表す指標としては幾つか考えられますが、この調査では、製品不良率、稼働率、MTBF、MTTR、1回当りの段取り時間、1日の段取り回数、設計期間、製造期間、製品仕掛り量、材料の在庫量などへの影響を見たものです。
産業の種別ごとの管理水準に及ぼす成果は、装置産業ではMTTRと製造期間で高水準となっていることが多く、加工産業や組立産業では、製品仕掛り量、材料の在庫量の側面で効果的という結果が得られています。
また、保全方式の面から見てみますと、装置産業では予防保全、予知保全、生産保全が効果を発揮するということが分かっています。加工産業や組立産業においては改良保全、予知保全、生産保全、TPMに大きな成果が現れていることも分かりました。この点でいえば、加工産業や組立産業では、改良保全が手軽で成果が得やすいと考えられます。装置産業では、改良保全というよりも予防保全で対応した方がより成果が大きいといえます。
筆者紹介
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「生産性向上のもう一つのキモは、設備管理の徹底にあり」バックナンバー
- 「設備保全」の5つの方式は機能や使用条件に合ったものを選択すべし
工場の自動化が進む中でより重要性を増している「設備管理」について解説する本連載。第2回は、「設備保全」の5つの方式ついて解説する。 - 「設備管理」とは何か、自動化が進む工場での重要性を改めて考える
工場の自動化が進む中でより重要性を増している「設備管理」について解説する本連載。第1回は、設備管理の全体像を紹介するとともに、経営視点との関係性についても解説する。 - IEとはものづくりを改善する科学的アプローチ
本稿では、ものづくりの経営改善手法であるIE(Industrial Engineering:経営工学)の基礎知識について、その生い立ちから、基本的な手法とその用途、さらに改善実践での心構えなどを紹介する。 - 方法改善は「4つのポイント」を見逃さないことがコツ!!
人・設備・モノのムダを見つけて改善する。製造業の原価低減に欠かせない3つの要素のムダ発見ために、インダストリアル・エンジニアリングにおける方法改善の技術を紹介していきます。 - IEにおける「品質管理」の考え方とは
生産工程で考えるべき「品質」の基本とは? TQCの歴史的経緯などを踏まえながらモノづくりの現場が心得るべき事柄を順を追って解説します。 - 革新的原価低減に必要な“ものの見方と考え方”〔前編〕
モノづくりの経営改善手法であるIE(Industrial Engineering)の実践的な方法についてご紹介する「実践! IE」シリーズですが、今回は「磐石モノづくりの革新的原価低減手法」をテーマに、革新的な原価低減を推進していくための考え方や手法について解説していきます。第1回はまずこの取り組みに必要な“ものの見方と考え方”について紹介します。 - 作業研究に欠かせない「標準時間」はなぜ生まれたのか
「実践! IE」シリーズの連載でおなじみの福田祐二氏による新連載がスタート。新シリーズでは、日々の作業管理を行う際の重要なよりどころとなる「標準時間(ST;Standard Time)」について分かりやすく解説する。第1回では、「標準時間」の生い立ちにまつわる話を紹介しよう。 - 工程管理とは何か、基本に立ち返って説明する
工場における生産管理の根幹となる「工程管理」について解説する本連載。第1回は、工程管理にどのような意義があるのかをはじめ、基本に立ち返って説明する。