400海里、40時間の実証航海で見えてきた無人運航の実力:船も「CASE」(2/4 ページ)
日本財団が進めている無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」と、その支援を受けて無人運航船システムの開発を進めているDFFAS Projectコンソーシアムは、2022年2月26日〜3月1日にかけて実施した無人運航船実証実験に関する記者発表会を開催し、実証実験の概要と成果について明らかにした。
最も難易度の高い航路で無人運航に挑んだ
続けて海野氏は、今回実施したDFFASコンソーシアムによる実証実験の概要を説明した。DFFASコンソーシアムは海運、造船、舶用機器など30社(協力企業を含めると60社超)が参画する無人運航技術の開発団体だ。DFFASが実施した今回の無人運航実証実験は、既存のコンテナ船「すざく」(全長95m、総トン数749t)を用いて東京国際クルーズターミナルから伊勢湾の津松阪港を経て東京港大井水産物ふ頭に戻る航路で実施した。
実証実験の具体的な状況はDFFAS Project プロジェクトリーダーを務める日本海洋科学の桑原悟氏が説明した。桑原氏は、「すざく」による実証実験の意義について、無人運航船の実運用を模擬した実船実証実験であったことを訴求した。
この実証実験では総トン数749tのコンテナ船「すざく」を用いて、東京湾国際クルーズターミナルから津松阪港の約790kmを無人運航システムによって航行している。東京湾浦賀水道、伊勢湾伊良湖水道を航行するという、世界で最も難易度の高い航路で無人運航に挑んだことになる。
桑原氏は、DFFAS Projectが開発する無人運航システムの特徴として「無人運航船プロトタイプ」「社会実装実現可能な組織」「Core Japan」「Grand Design」といった4項目を掲げている。
無人運航船プロトタイプでは、常に変化する海象、故障する可能性のある機関、不安定な通信など、現在の船舶運航の現状から目をそらすことなく設計し、システムを構築しているという。その典型的な例として桑原氏が挙げるのが陸上支援センターだ。全ての交通ノードが陸上から制御できるシステムを有していることと同様に、無人運航船の社会実装でも陸上支援センターは不可欠だという。陸上支援センターでは、遠隔操船を含めた無人運航支援機能全般を網羅した包括的なシステムを開発するとともに、業界の発達も視野に入れた開発プロセスを構築している。
社会実装実現可能な組織について、無人運航船の実装と継続を可能とするためには1つの企業体では実現不可能で、多種多様な業界の知見を集結できるオープンイノベーションな開発体制の必要性を示した。「ユーザー企業がプロジェクトをけん引したことで強い推進力が生まれてProjectが成功した」(桑原氏)。
Core Japanとは自動運航船技術のコアルールを定めて標準化することで、新規開発企業の参入を容易にし、業界全体、日本企業全体の競争力を強化できる体制の構築を指す。この技術の標準化は、日本全体の技術力を強化するだけでなく、将来のIMO国際基準化、国際標準化において日本企業が主導権をとれる体制を目指すことも視野に入れている。
Grand Designは、無人運航技術を社会実装するために必要な法的環境の整備を指している。無人運航船が運用できるようになるためには、無人運航船が利用できる法律やルールの整備も必要だ。また、海難事故が発生した場合に、その過失判断や損害賠償判断のための法的解釈も整えなければならない。加えて、無人運航船を導入するメリットが多くの人に理解して受け入れてもらう必要もあり、そのための取り組みもGrand Designの一環として実施するとしている。そのための具体的な取り組みとしては、無人運航技術の導入で保険料が下がり収益が上がるといった価値の創造が必要だと桑原氏は説明する。
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