独立分社する東芝デバイスカンパニーの成長をけん引するパワー半導体技術の実力:モノづくり最前線レポート(3/3 ページ)
東芝デバイス&ストレージがパワー半導体技術について説明。東芝から独立分社するデバイスカンパニーの成長をけん引することが期待されているパワー半導体事業だが、低耐圧と高耐圧のMOSFETで業界トップの性能を実現しており、次世代パワー半導体として期待されているSiCデバイスやGaNデバイスの開発にも注力している。
SiCデバイスは第3世代へ、2023年上期にはGaNデバイスを投入
次世代パワー半導体である化合物半導体では、商品化ではSiCデバイスが先行しており第3世代品を投入する段階で、GaNデバイスについては2023年に市場投入する計画となっている。
SiCデバイスも低耐圧MOSFETと同様に、世代更新ごとに20%程度の性能向上を図っていく計画で、2024年ごろに第4世代、2026年ごろに第5世代を投入する。SiCデバイス市場は、2021年時点で500億円を下回る程度だが、2030年には3000億円を上回る規模に成長する。電源や産業向けでディスクリート製品が先行して市場を創出し、その後産業用とEV(電気自動車)用のモジュール製品市場が急拡大するという見立てだ。
ディスクリート製品が用いられる直近のSiCデバイスの応用例としては、小型化による効果や高効率化による発熱抑制効果が得られるサーバやEV充電スタンドの電源が挙げられる。「設置や設計の自由度を高められるので、システム全体としての高度化にもつなげられる」(高下氏)。
モジュール製品のSiCデバイスの応用例となるのが、EVと鉄道システムである。高下氏は「モビリティであるEVと鉄道システムにとって小型軽量化はより大きなメリットになる」と述べる。既に採用されている鉄道システムの場合、SiCデバイスの採用で生まれた余剰スペースに二次電池を用いた非常用走行電源を搭載し、付加価値の向上を実現できたという。鉄道システムでは他にも、東京メトロ丸の内線の新型車両「2000系」向けに、はんだを使わずに銀焼結で接合したSiCモジュールの採用を2021年5月に発表している。
GaNデバイス市場は、モバイル機器向けの急速充電器電源としての需要を中心に急激に拡大していく見通し。2021年時点では100億円に満たないが、2030年には1800億円を超える規模になるという。
GaNデバイスは、SiCデバイスと比較した場合、より高いスイッチング周波数を実現できる点が大きな特徴になる。高周波スイッチングによって、周辺回路のサイズを大幅に小型化できるとともに、シリコンパワー半導体よりも高出力化が可能なので、SiCデバイスでも挙げた小型化の効果も得られる。
東芝デバイス&ストレージは2023年上期に、ノーマリーONタイプのGaNデバイス製品を市場投入する計画である。高下氏は「GaNデバイスはその特性上から少し使いにくいという課題がある。既に市場投入している各社とも効率と必要とする部品点数や制御のしやすさなどで少し苦労している状況だ。当社はよりシンプルな回路にすることでこの課題を解決したい考えだ。将来的には、GaNデバイスをさらに使いこなすためのノーマリーOFFタイプ製品の開発も進めている」と述べている。
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