海洋プラスチックごみ問題解決へ、包装技術で貢献するオムロンの技術力:FAニュース
オムロンは2021年12月23日、同社の温度調節器関連技術について説明する報道陣向けのラウンドテーブルを開催。包装業界において海洋プラスチック問題への対応で新素材採用が広がる中、センシング技術とAI対応の温度調節器の組み合わせによる「Perfect Sealing」が貢献していることを紹介した。
オムロンは2021年12月23日、同社の温度調節器関連技術について説明する報道陣向けのラウンドテーブルを開催。包装業界において海洋プラスチックごみ問題への対応で新素材採用が広がる中、センシング技術と温度調節器制御技術の組み合わせによる「Perfect Sealing」が貢献していることを紹介した。
海洋プラスチックごみ問題で広がる新素材対応
自然で分解されないプラスチックごみ問題が世界的に大きな関心を集めており、その流れの中プラスチック製品の廃止など、世界各国で今後規制が強まる見込みだ。
こうした動きを受けて、プラスチックを中心としてきた食品や消費財などの包装材料は、新たに天然素材などを用いたクラフト包材や、生分解性フィルムへの置き換えが進みつつある。加えて、これらの包装材料をできる限り使わない「薄肉化」への取り組みも進んでいる。ただ、これらの新素材はプラスチックに対して熱反応性が異なることから、従来の包装工程では接着不足が起こったり、しわが発生したり、焦げて融解が起こったりするなど、包装不良が多く発生している。
これらの課題を解決したのがオムロンの「Perfect Sealing」である。「Perfect Sealing」はオムロンのセンシング技術と、高いシェアを持つ温度調節器の制御技術を組み合わせることで、素材によらずにシーリング工程(包装材を貼り合わせて封をする工程)を安定化できる技術だ。
実現のポイントは主に2つある。1つ目は、シール面近くで温度を測定する包装機用温度センサーを新たに開発した点だ。シーリング工程ではヒーターを内蔵したヒートバーで包装材を挟むことで溶着させているが、従来は温度センサーをヒートバー内に搭載しているため、シール面の温度変化とタイムラグが生まれていた。これをシール面近くにセンサーを設置することで、シール面の温度変化をリアルタイムに把握できるようにした。温度センサーそのものもこれらに耐え得るように耐熱性と高い応答性を実現している。
2つ目が、温度調節器の制御技術の開発だ。従来の温度制御は、温度変動に対してヒートバーの温度を高めたり低めたりするが、安定的な制御が難しかった。「Perfect Sealing」では、AI(人工知能)技術を活用することで、アルゴリズムによりシール面の温度をゆれなく調整できるパラメータを作ることができる。試稼働させる中でその環境に最適なパラメータを学習し温度調節器を自動で最適に制御することが可能となる。
これらの安定的なシーリング技術の確立により、従来はシーリング面の温度が目標温度に対し8.1℃幅での変化での調整となっていたが、0.7℃幅まで狭めることができ、高精度のシーリングが行えるようになる。こうした技術力が評価され、環境問題への対応に積極的な欧州のグローバル食品メーカーを含む多くの企業への採用が進んでいるという。オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 西出美穂氏は「どんな接着面でも温度変化を10分の1以下にできる革新的な技術が確立できた」と語っている。
今後はさらに、コーヒースティックやペットボトルなどさまざまな素材や工程での採用を目指しているという。「電子部品の実装用リールなど、食品以外での包装工程などさまざまな領域での採用を目指していく」(西出氏)としている。
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