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WIN-WINなPoC実現に必要な契約の仕方スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(4)(2/3 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第4回はPoC契約において意識すべきポイントを解説したい。

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委託料は低額でもスピード重視で進む戦略も

 モデル契約書のPoC契約4条でも、以下のように定めています。

第4条 本検証の委託料は●万円(税別)とし、本契約締結時から10営業日以内に全額を、甲が指定する金融機関の口座に振込送金する方法により支払うものとする。振込手数料は乙の負担とする。

 なお、PoC後に共同研究開発へと進む確度が高い場合は、正式な契約に基づいたPoCの実施を優先し、PoC段階ではあえて低額な委託料にしておき、連携事業者との交渉締結のスピードを優先する方針もあり得ます。そのため、共同研究契約が締結されなかった場合に、PoC費用の追加分の支払義務を規定することを条件に、PoC段階の対価を安く設定する合理性を肯定することも考えられます(モデル契約書【技術検証(PoC)契約書(新素材)】:第6条参照)。

PoCの費用負担はどうする?


費用負担を考える

 技術検証を行うに当たって生じる諸費用を、誰がどの割合で負担するかも考えなければなりません。

 技術検証を開始する段階では、発生する費用の種別や総額の金額感が不透明な場合もあります。いずれが費用を負担するかの原則を定めつつ、一定額を超える部分については協議の上で負担者や負担割合を定める必要があります。契約書の例文としては以下のようなものが考えられます。

第●条

 本検証の実行に際して生じる費用は乙の負担とする。ただし、費用の総額が●円を超える場合には、当該部分の費用負担者及びその負担割合について、甲乙協議の上定めるものとする。

成果物の帰属先を決める

 技術検証の過程で何らかの新規性の高い発明が生まれ、新たな知的財産権が生じることがあり得ます。この知的財産権の帰属についてその都度協議していると、いわば本番の前段階であるPoCでいたずらに時間を要することになりかねません。

 ただ、PoCはあくまで検証段階であり、事業にとってクリティカルな発明が生まれる可能性はさほど高くありません。検証作業の主体となるのがほとんどスタートアップである場合には、成果物の知的財産権をスタートアップに単独帰属させる形での整理もあり得るでしょう。モデル契約書(新素材分野)のPoC契約第9条では以下のように定めています。

第9条 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権は、乙または第三者が従前から保有しているものを除き、甲に帰属するものとする。

2 甲は、乙に対し、乙が本検証の遂行の目的のために必要な範囲に限って、乙自身が本報告書を使用、複製および改変することを許諾するものとし、著作者人格権を行使しないものとする。

次段階への移行期限

 NDAと同様、スタートアップは特定の大企業との間で協業が(少なくとも相当期間内に)実現不可能ということになれば、早期に別の大企業との協業に進みたいという実情があります。

 そこで、PoCの結果報告後、次段階に進むか否かを決定する期限を設定することが考えられます。モデル契約書(新素材分野)のPoC契約6条を見てみましょう。

第6条 甲および乙は、本検証から研究開発段階への移行および共同研究開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、本契約第3条第3項に定める本報告書の確認が完了した日から2カ月以内に、甲に対して共同研究開発契約を締結するか否かを通知するものとする。

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