ゴルフクラブに革新をもたらす3Dプリント技術採用パター、Cobra Golfが製品化:HP Digital manufacturing summit 2021(2/2 ページ)
日本HP主催「HP Digital manufacturing summit 2021」の基調講演に、プーマジャパン コブラプーマゴルフ事業部 シニアマネージャーの西川伸一郎氏が登壇し、「ゴルフクラブの未来を切り開く3Dプリントテクノロジー」をテーマに、コブラブランドのゴルフクラブ「KINGパターシリーズ」の開発に3Dプリント技術がどのように生かされているのか紹介した。
3Dプリント技術を採用した「KING 3D Printed Putterシリーズ」
最新のKING 3D Printed Putterシリーズでは、HPのMJF方式3Dプリンタとナイロン素材を用いて、パターの内部に組み込まれる格子状のカートリッジを製造している。
このナイロン素材で3Dプリントされた格子状のカートリッジは、中心部の不要な質量を取り除き、軽量化を実現する他、振動の軽減にも効果を発揮する。さらに、その周辺を金属製のパーツ(クラウン、シャシー)で覆うマルチマテリアル構造を採用し、ウェイトを組み合わせることでシャシー内の重量配分の最適化を実現し、パッティングの安定性と正確なボールの転がりを助ける。
また、デザイン面でも、3Dプリント技術を採用したことによる優位性が発揮されているとし、西川氏は「3Dプリント技術によって、同じような形状のパターでも、従来よりも大胆でクールなデザインを作り出せる」と語る。
3Dプリント技術によって従来よりも大胆でクールなデザインを作り出せる。右が「KING 3D Printed Putterシリーズ」(GRANDSPORT-35)[クリックで拡大] 出所:プーマジャパン
実際の製品化に関しては、まず2020年に数量限定モデルとして「業界初」(西川氏)となる3Dプリント技術を採用したパターを販売した。そして、2021年4月に3Dプリント技術を採用した製品の第2弾として、バックフェースのメダリオン(メーカーロゴなどが入った板状の部品)を3Dプリントした「KING RADSPEED IRONS」を発売。そして、同年7月に、3Dプリント技術採用製品の第3弾として、前述したKING 3D Printed Putterシリーズを発売している。
KING 3D Printed Putterシリーズでは、ブレード形状の「GRANDSPORT-35」、角型マレットの「SUPERNOVA」、ネオマレットの「AGERA」と、特色のある3つのヘッドタイプを展開。ぞれぞれ、ナイロン素材の3Dプリント製カートリッジをヘッド内部に搭載することで、パッティング時の安定性を高めている。
通常、パッティングを行う際、クラブの芯(スイートスポット)から外れてボールを打ってしまうと、ヘッドがぶれて、ボールを思い通りにコントロールすることができない。しかし、同シリーズでは、前述したマルチマテリアルによる構造的な特性によって、優れた慣性モーメントを実現し、一般的なパターよりもぶれが少なく、安定したパッティングが行えるという。
具体的には、ツアーでも人気のある通常のウェイト付きブレード形状パターの慣性モーメントが約4000g・cm2であるのに対して、GRANDSPORT-35は4908g・cm2。同じく、一般的な角型マレットタイプのパターの慣性モーメントが約3800g・cm2であるのに対して、SUPERNOVAは5708g・cm2とより大きな値となっている。そして、大型のネオマレットタイプのパターの慣性モーメントが約5000g・cm2であるのに対して、AGERAは7648g・cm2と高い慣性モーメントを実現している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- HPの金属3Dプリンティング技術で短期開発と高性能化を実現したゴルフパター
HPは、ゴルフクラブの製造を手掛けるCobra Golfが同社の金属3Dプリンティング技術「HP Metal Jet」を採用した限定モデルのゴルフクラブ「KING SUPERSPORT-35 パター」を販売すると発表した。 - コロナ禍で生まれた3Dプリンタ活用の流れが、デジタル製造を加速
コロナ禍で、あらためてその価値が再認識された3Dプリンティング/アディティブマニュファクチャリング。ニューノーマルの時代に向け、部品調達先や生産拠点の分散化の流れが加速していく中、サプライチェーンに回復力と柔軟性をもたらす存在として、その活用に大きな期待が寄せられている。2021年以降その動きはさらに加速し、産業界におけるデジタル製造の発展を後押ししていくとみられる。 - いまさら聞けない 3Dプリンタ入門
「3Dプリンタ」とは何ですか? と人にたずねられたとき、あなたは正しく説明できますか。本稿では、今話題の3Dプリンタについて、誕生の歴史から、種類や方式、取り巻く環境、将来性などを分かりやすく解説します。 - 「単なる試作機器や製造設備で終わらせないためには?」――今、求められる3Dプリンタの真価と進化
作られるモノ(対象)のイメージを変えないまま、従来通り、試作機器や製造設備として使っているだけでは、3Dプリンタの可能性はこれ以上広がらない。特に“カタチ”のプリントだけでなく、ITとも連動する“機能”のプリントへ歩みを進めなければ先はない。3Dプリンタブームが落ち着きを見せ、一般消費者も過度な期待から冷静な目で今後の動向を見守っている。こうした現状の中、慶應義塾大学 環境情報学部 准教授の田中浩也氏は、3Dプリンタ/3Dデータの新たな利活用に向けた、次なる取り組みを着々と始めている。 - 3Dプリンティングの未来は明るい、今こそデジタル製造の世界へ踏み出すとき
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、サプライチェーンが断絶し、生産調整や工場の稼働停止、一斉休業を余儀なくされた企業も少なくない。こうした中、サプライチェーンに回復力と柔軟性をもたらす存在として、あらためて3Dプリンタの価値に注目が集まっている。HP 3Dプリンティング事業 アジア・パシフィックの責任者であるアレックス・ルミエール(Alex Lalumiere)氏と、日本HP 3Dプリンティング事業部 事業部長の秋山仁氏に話を聞いた。 - 絶対に押さえておきたい、3Dプリンタ活用に欠かせない3Dデータ作成のポイント
3Dプリンタや3Dスキャナ、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。第4回は、3Dプリンタを活用する上で欠かせない「3Dデータ」に着目し、3Dデータ作成の注意点や知っておきたい基礎知識について解説する。