低毒性燃料採用の超小型衛星用スラスター開発はリアル下町ロケットだった!?:宇宙開発(4/4 ページ)
低毒性燃料を採用した超小型衛星用スラスターを開発した由紀精密と高砂電気工業。両社とも老舗の中小企業で宇宙分野への参入が比較的新しいこともあり、小説やテレビドラマで話題になった「下町ロケット」をほうふつとさせるところもある。では実際の開発は、どのようなものだったのだろうか。両社の関係者に話を聞いた。
宇宙業界で立ちはだかる「実績」の壁
宇宙空間は厳しい環境である。真空である上、ひなたは高温、日陰は極寒にさらされる。半導体部品の天敵である放射線も強い。さらに打ち上げ時の激しい振動や衝撃にも耐えなければならない。もし故障したとしても、宇宙だと簡単に修理にも行けない。衛星には非常に高い信頼性が求められるのだ。
そのため衛星では、宇宙で使用された実績があるものを採用する傾向が強い。だが、これはニワトリとタマゴでもある。誰かが使わないといつまでも実績ができないし、実績がないからいつまでも使われない。最初の一歩を踏み出すためのハードルは、非常に高い。
スラスターの販路を拡大していくためには、いかにして最初の顧客を得て、軌道上で性能を実証するかが重要だ。永松氏は「国内衛星ベンチャーにヒアリングして回り、こういうスラスターを作るという情報を渡しているが、興味を持ってもらっている。一緒に作れるのが国産スラスターのメリット。関係強化と維持に力を入れたい」と述べる。
一方、市場規模としては、国内よりも海外の方が圧倒的に大きい。もしコンステレーションの衛星で採用されれば、一挙に販売数の伸びも期待できる。こちらについて、永松氏は「どんどんPRしていきたい。当社はフランスにも拠点があるので、営業に活用していく」と、期待を寄せる。
なお、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が実施中の「革新的衛星技術実証プログラム」は、まさにこの「最初の実績」を軌道上で作る機会を提供し、国際競争力を高めようというものだ。YUTAスラスターの実証としては理想的で、公募のため採用されるかどうか確実ではないものの、このプログラムの活用も検討している。
高砂電気工業は既に、バルブやポンプで世界的な販売ネットワークを構築しており、由紀精密を側面から支援する構え。浅井氏は「宇宙ミッションも多様化していて、宇宙は行くだけの場所から、暮らす場所に変化しつつある。食料の生産、水の再処理、電気分解など、さまざまなところでバルブ、ポンプのニーズを聞いている」と状況を説明する。
バルブやポンプの営業の中で、相手の会社が衛星も手掛けているときもあるだろう。そういったときに「スラスターもどうですか」と提案し、由紀精密につなげていくのが「われわれの役割として適切」(浅井氏)と考えているそうだ。
永松氏は「JAXAや衛星メーカーとはこれまで、さまざまな開発案件や部品製造などで良好な関係を築いてきた。このスラスターを1つの刺激として、さらに宇宙業界を盛り上げていきたい」と意気込む。超小型衛星用スラスターも競争が激しくなりつつあり、勝ち抜くのは簡単ではないだろうが、今後の動向に注目したいところだ。
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