想像力を備えたAIの実現へ、産学協同「世界モデル・シミュレータ寄付講座」開設:人工知能ニュース(2/2 ページ)
東京大学大学院 工学系研究科、スクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミー、ソニーグループ、NECの4者は2021年9月28日、オンラインで会見を開き、「世界モデル・シミュレータ寄付講座」において、AI(人工知能)に携わる次世代人材の育成と、4者の知見を合わせた新しいAIの研究開発を産学協同で推進していくと発表した。
「世界モデル」を組み込んだ次世代AIは常識を学び、想像力を備える
世界モデルについて、松尾氏は「人間の脳の中にあるシミュレータ」と表現する。例えば、「水の入ったガラスのコップを床に落としたらどうなるか」について、それを現実世界で実際に試さなくても、人間は頭の中で、コップが割れて水がこぼれて床を濡らす様子を思い浮かべることができる。このように、シミュレータのようなものが人間の脳の中には存在するわけだが、それは先天的に備わっているものではなく、経験によって学習した結果、備わるものだといえる。これにより、人間は現在の状態から将来を想像したり、物体の一部分を見て全体像をイメージしたりすることができる。
今後のAIの発展においても、こうした人間の「想像」に当たる、限定的な情報から現実世界を効率的にシミュレートする、経験から効率的に外界の「常識」を学び、「想像」できるようになることが求められており、その基幹技術として世界モデルに注目が集まっている。実際、Googleをはじめとする世界のAI先進企業や研究室が、世界モデルの研究に注力している状況にあるとのことだ。
世界モデルの実現によって、例えば、ロボットが人間のように「常識」を備えるようになり、「想像」できるようになることで、汎用(はんよう)化が進むと考えられる。また、現在AIの世界では真の言語理解にまで到達できていないが、将来的には世界モデルを活用することで、それを実現できる可能性があるという。
これらは世界モデルが組み込まれた次世代AIの一例にすぎないが、汎用ロボットでいえば、建設、食品、医療、農業、災害救助など、非常に幅広い領域での活用可能性がある。また、言語理解の向上によって、対話や接客、翻訳、さらには物理・社会の新法則の発見などにもつなげられる可能性があるという。「このように、世界モデルが組み込まれた次世代AIが社会的に与えるインパクトは非常に大きい」(松尾氏)。
一方で、ディープラーニングの研究そのものに目を向けてみると、諸外国と比較して、日本がリードをとれていないという状況にある。この点について、松尾氏は「ディープラーニングの技術進化が第2ステージに入ろうとしている今、何とか、この日本から強い技術を作り出していきたい。ロボット技術やシミュレーション技術など、日本が持つ強みを生かしながら、世界モデルの研究開発を世界に先駆けて行っていきたい。そうした思いが、今回の世界モデル・シミュレータ寄付講座の開設趣旨にもつながっている」と思いを語る。
寄付企業が「世界モデル」の実現で期待する成果
会見では、寄付企業各社の説明も行われた。ここでは世界モデル・シミュレータ寄付講座の取り組みを通じて獲得したい、「期待される成果」にフォーカスしてお届けする。
まず、新たなエンターテインメントAIを実現するために2020年に設立したスクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミーは、世界モデルの構築によって「環境をより精密に理解する」「細やかな行動が可能になる」「世界を理解した上での会話が可能になる」新しいキャラクターAIの実現に期待を寄せる。同社からは、シミュレーション技術やゲーム製作技術などが提供される他、同社社員(1人)を寄付講座における研究に参加させるなど、研究成果に貢献し、新たなキャラクターAIの実用化につなげたい考えだ。
ソニーグループでは、エンターテインメントコンテンツの生成に世界モデルを適用することで、プロセス変革を図り、世界モデルそのものがエンターテインメントコンテンツとなる可能性に期待を寄せる。また、寄付講座への期待として「AI人材の育成と輩出」「世界モデルのノウハウや可能性の獲得」「ソニーが保有する3R(Reality、Realtime、Remote)技術との親和性」を掲げる。
そして、NECでは世界モデルのことを、“想像力の獲得”と位置付け、これまで同社が取り組んできたシミュレーションを含むデータをベースとしたAIを、世界モデルによって本質的に強化できるとし、世界モデルをコアにしたAIの活用による可能性に期待を寄せる。また、同社はこの寄付講座における研究を通じて「次世代AI研究の活性化」「AIの社会実装を担う人材層の拡充」「最先端AI研究の遂行プロセスの確立」につなげたいとの考えを示す。
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