量子コンピュータが普及しても古典コンピュータは駆逐されないーーIBM:量子コンピュータ(2/2 ページ)
IBMは2021年9月21日、量子コンピュータ関連技術が産業界にもたらす影響などをまとめたレポート「The Quantum Decade」の日本語版を公開した。同社は量子コンピュータのビジネスサービス開発部門「Quantum Industry & Technical Services(QI&TS)」も擁する。
量子コンピュータのビジネス適用を支援する「QI&TS」
IBM 戦略コンサルティング シニア・マネージング・コンサルタント 兼 IBM Quantum Industry & Technical Services Japan Subleaderの橋本光弘氏は、産業界における量子コンピュータの普及を見据えて、企業は大きく分けて3つの“準備”をすべきだと指摘する。
「1つ目は戦略策定で、量子コンピューティングのもたらす機会や脅威を特定し、経営戦略に組み込むことだ。2つ目は量子コンピュータ関連技術の適用可能性を評価できる技術リテラシーを習得すること。3つ目は量子ソリューションを生み出すプロセスの設計や組織作り、人材育成などだ。特に量子コンピュータの技術、ビジネス的可能性に通じた人材、量子人材の育成は重要だ。量子コンピュータのハードウェアやコンパイラアプリケーションソフトウェアの開発に加えて、実務的なビジネスモデルやサービス設計まで垂直的に考えられる人材(量子人材)が必要になる」(橋本氏)。
こうした“準備”の支援サービスを提供するのが、IBMにおける量子コンピュータ関連のサービスビジネス開発部門「Quantum Industry & Technical Services(QI&TS)」である。
QI&TSには量子コンピュータ関連技術の技術者やコンサルタントが在籍しており、量子コンピュータ活用を盛り込んだビジネスの戦略策定や、ユースケース別の適用可能性評価、実機を用いた効果評価などを担当する。この他、量子コンピュータ関連技術の動向や、顧客企業が属する業界に対するインパクトの分析、潜在的ユースケースの特定、実行施策の設定、顧客の事業領域におけるユースケースの共同開発を行う。
「QI&TSがターゲットとする顧客層は幅広い。ビジネスパーソンに対しては量子コンピュータに投資する意義を説明する他、戦略設計支援を行い、技術開発者に対してはより技術的な内容に踏み込んで、技術要素の組み合わせ方や共同開発の枠組み設計なども説明する。CxOから現場の人間まで幅広く支援できる」(橋本氏)
また橋本氏は、量子コンピュータ関連技術に対する産業界での意識変化について、「業務の中でさまざまな業界のCxOと会話をしているが、単に関心を向けるだけでなく、技術的な実用性の高まりから本格的な導入に向けて検討しようとする企業が増加しているようだ。また、IBMは2021年7月27日に、国内初となるゲート型商用量子コンピュータ『kawasaki』の稼働を開始したが、これに伴ってIBMに寄せられる量子コンピュータに関する問い合わせも増えている」と説明した。
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