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いきなり社長に呼ばれたらDXセキュリティ対策を丸投げされた件事例で学ぶ製造業DXセキュリティ対策入門(1)(4/4 ページ)

中堅化学薬品メーカーのABC化学薬品に勤める新卒入社6年目の青井葵。彼女はいきなり社長室に呼ばれ、社内DXセキュリティプロジェクトチームのリーダーに任命される。それまで社内のセキュリティ問い合わせ担当だった青井にとって、これはいきなり荷が重すぎる! 元工場長の変わり者、古井課長の支援の下、果たしてプロジェクトの命運はいかに!?

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前途多難だなぁ

さて、では今回はこれくらいにしよう。来週までに、わが社のDXプロジェクトについて調べて、整理してきてもらえるかな。


はい、分かりました! 今の仕事の引き継ぎもありますので、週末の土日にやっておきます!


 そう元気よく返事をして、席を立とうとすると、課長が見たこともないような厳しい顔で私を呼び止めた。

青井さん、土日の作業は禁止!


いや、でもどうせ暇なんで。それに私はあまりに知識がなさすぎて、今回のプロジェクトへの不安がいっぱいで、イントラにある情報まとめるだけじゃ全然足りないです。課長や社長の期待に応えるためにも、これくらいはやらないといけないと思っています。


DXというのは、社内文化の変革だという話はしたよね。それは、青井さんの働き方も含んでいると考えてほしい。とにかく、土日は作業禁止で、ゆっくり休んでください。次回はイントラにある情報をまとめてくれるだけでいいよ。代わりに、土日はこれらの本の中から好きなものを選んで可能な範囲で良いので読んでね。購入してあとで精算しといて。


 そう話しながら、課長はPCを操作し、私宛に、幾つかのビジネス書のリンクが書かれたメールを送付した。課長は普段は冗談も多くて、めったなことでは怒らないのだが、時々こうして厳しい顔をする。私の共感力をもってしても、なかなか本心が見えない。そもそも、頑張りますって言ったのに怒られるってどういうこと? せっかく、今日の話を聞いてやる気が出てきたところなのに、前途多難だなぁ。

参考資料:ABC化学薬品の会社概要

ABC化学薬品の業績推移
ABC化学薬品の業績推移
項目 説明
企業概要  戦前から続く老舗の化学薬品中堅メーカー。創業から化成品と農薬を主力事業として堅調な成長を続けてきた。2000年以降の化成品・農薬事業の成長鈍化を打破するため、2010年から立ち上げた健康食品事業が、近年の健康ブームに乗って急成長を遂げ、2019年に過去最高の売上高(3000億円)を達成した。
 また、世の中のIoT化の流れを受けた新事業として、2017年に農薬散布機メーカーを買収し(ABCアグリ)、IoT農薬散布ソリューションの開発を行うことで、農薬事業の拡大を目指している。
 しかし、2020年の第1四半期から、コロナ禍の影響を受けて、主力である化成品の売上高が2割落ち込み、経常利益も大幅減となった。2024年の創業100周年を前に、2023年の期中に再度の売上高3000億円の達成を目指して、経営層から全社的に早急なDX推進の号令がかかっているのが現状である。また、創業以来、長らく健全で保守的な経営手法を取ってきたが、健康食品事業を成功させ、2016年から指揮を執る50代社長の意向もあり、「変化」と「攻め」を意識した経営手法へとシフトしている。
生産拠点 国内8事業所(化成3、農薬3、健康食品2)、海外2事業所(化成2:マレーシア、シンガポール)
各事業の売上高比率 化成(48%↓)、農薬(30%↓)、健康食品(20%↑)、農薬散布機(2%↑)
各事業のビジネス環境概観  主力である化成品・農薬の事業は、為替変動の影響を受けやすいものの、国内における競合との市場競争は落ち着いている。コロナ禍で一時的に減少したが、安定したシェアと需要が見込める分野である。
 一方、健康食品(サプリメント)の分野は、流行の変化が激しく、主力製品の寿命が短いことから継続した製品開発が求められるが、業界の成長以上にシェアを伸ばしていることもあり、ABC社の注力分野となっている。
 農薬散布機事業は、もともとは、シェアが伸び悩む農薬事業のテコ入れのために検討されたプロジェクトが、農薬散布機メーカー(ABCアグリ)買収とともに事業部化したものである。国内農業分野における労働力減少に伴う業界再編を見据えて、農薬散布のリモート化・自動化を実現するためのIoTソリューションの開発を進めている。現状はある農協団体との共同実験段階であるが、アジアを中心とした海外展開も視野に入れており、農薬事業とのシナジー効果を目指した新規事業の位置付けとなる。
ABC化学薬品の会社概要

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筆者プロフィール

佐々木 弘志(ささき ひろし)

国内製造企業の制御システム機器の開発者として14年間従事した後、セキュリティベンダーに転職。制御システム開発の経験をもつセキュリティ専門家として、産業サイバーセキュリティの文化醸成(ビジネス化)をめざし、国内外の講演、執筆などの啓発やソリューション提案などのビジネス活動を行っている。CISSP認定保持者。

2021年8月〜現在:フォーティネットジャパン株式会社 OTビジネス開発部 部長
2012年12月〜2021年7月:マカフィー株式会社 サイバー戦略室 シニア・セキュリティ・アドバイザー
2017年7月〜現在:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)産業サイバーセキュリティセンター(ICSCoE)専門委員(非常勤)
2016年5月〜2020年12月、2021年7月〜現在:経済産業省 商務情報政策局 情報セキュリティ対策専門官(非常勤)

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