ボルトの締め付けトルクを決める:設計者向けCAEを使ったボルト締結部の設計(6)(5/5 ページ)
部品の固定(締結)のために使用する“ボルトの設計”をテーマに、設計者向けCAE環境を用いて、必要とされる適切なボルトの呼び径と本数を決める方法を解説する。これまでの連載で「締め付けトルクと軸力の関係」や「いろいろな金属の摩擦係数」が明らかとなったので、連載第6回ではボルトの締め付けトルクを決める。
Lスパナについて
今回求めた締め付けトルクとねじ呼び径の関係を図10に示します。締め付けトルクは、ねじ呼び径の3乗に比例すると考えてよさそうです。軸力は断面積に比例するので、呼び径の2乗に比例します。摩擦トルクは全トルクの90%程度です。摩擦トルクは「腕の長さ×軸力」で、腕の長さと呼び径は比例関係にあるので、摩擦トルクは呼び径の3乗に比例することになります。
図11は、筆者が持っているLスパナです。図11のA寸法について考えてみます。LスパナのA寸法は150[mm]くらいですので、強度区分12.9のM4ボルトの締め付けに必要な力は25[N]、つまり2.5[kgf]となります。小さいですね。手加減し、2.5 [kgf]で締め付けたら緩いのではないかと不安になります。M24ボルトについて考えてみましょう。締め付けるときに200[N]の力を出せるとすると、必要とするA寸法は4.1[m]となります。M16ボルトでも1.2[m]です。長さが1[m]くらいのトルクレンチを使った経験はありますが、4[m]のトルクレンチは見たことがありません。機械で締め付けることになります。
以上のことから、図11のLスパナを使っている限りM6より呼び径の小さなボルトに対しては「締め過ぎ」となり、M8以上のボルトに対しては「トルク不足」になって腕の長さを長くするパイプを使う必要があります。
ここまで長い道のりでしたね。連載第3回でボルトが疲労破断しない条件を述べました。この条件とは、荷重が作用したときに被締結体が離れないことでした。また、被締結体が離れないことを確認するためには、ボルトを締め付けた際に生じる軸力を見積もる必要があり、これを連載第4回で説明しました。そして、今回ボルトの締め付けトルクが求まりました。いよいよ締結部の設計です。次回は「その設計、そのボルトと本数で大丈夫?」の問いに答えられる設計法を解説します。お楽しみに! (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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