EUのワクチンパスポートを支える分散型連携基盤と「トラスト」:海外医療技術トレンド(74)(1/4 ページ)
本連載第61回で、欧州連合(EU)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)向けデジタル接触追跡アプリケーションの越境連携エコシステムを紹介したが、今回は、ワクチン接種証明書(いわゆるワクチンパスポート)を取り上げる。
本連載第61回で、欧州連合(EU)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)向けデジタル接触追跡アプリケーションの越境連携エコシステムを紹介したが、今回は、ワクチン接種証明書(いわゆるワクチンパスポート)を取り上げる。
EU域内共通のワクチン接種証明書がスタート
2021年6月1日、欧州委員会はCOVID-19向けワクチン接種証明書に関するEU共通の枠組みである「EUデジタルCOVID証明書(COVID証明書)」に、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、クロアチア、ポーランドの7カ国が参加して本格運用を開始したことを発表した(関連情報)。
これに先立ち欧州委員会は、2021年3月17日、パンデミック期間中のEU域内における市民の安全で自由な移動を促進するために「デジタルグリーン証明書」を創設する提案書を発表し(関連情報)、同年5月20日には、欧州議会および理事会との間で、「EUデジタルCOVID証明書」の創設に関して合意したことを発表していた(関連情報)。
さらに、同年7月1日には、「EUデジタルCOVID証明書規則」が正式に適用開始となり、EU加盟国のうち21カ国と、ノルウェー、アイスランド、リヒュテンシュタインの間で、利用可能となった(関連情報)。
上記のような立法過程と並行して、欧州委員会は、各国eヘルス規制当局による自主的ネットワークである「eヘルスネットワーク」と連携しながら、システム展開のための技術仕様策定作業を行い、2021年3月12日には、「検証可能なワクチン接種証明書 - 基本的な相互運用性の要素に関するガイドライン第2版」(関連情報、PDF)と「保健認証の相互運用性 - トラストネットワーク V1.0」(関連情報、PDF)を発表し、2021年4月21日に採択されている(関連情報)。
これらのうち、「検証可能なワクチン接種証明書 - 基本的な相互運用性の要素に関するガイドライン第2版」は、ワクチン接種証明書向けの固有識別子など、最小限のデータセットを設定するとともに、トラストフレームワークの基礎を設定することを目的としている。
特に本ガイドラインでは、以下のような原則を掲げている。
- 紙およびデジタルの手段双方を受け入れることができるスキームを介した簡潔性
- 既存の国レベルのソリューションに沿った柔軟性および互換性
- 不可欠な装備向けに構築する必要がある個人データの厳格な保護
- 道筋の各ステップで加盟国間の同意を得る段階的アプローチ
その上で、基礎的な相互運用性の要素として、以下の3つを挙げている。
- ワクチン証明書に含まれた必要不可欠な情報を持った最小限のデータセット
- ワクチン接種コースの完了または一部終了を示す、世界的に一意で検証可能な固有のワクチン接種証明/表明識別子
- 証明書保有者が提示した証明書の真正性や有効性を確立するために必要なデジタルインフラストラクチャを含むトラストフレームワーク
他方、「保健認証の相互運用性 - トラストネットワーク V1.0」は、トラストフレームワークを概説し、EU加盟国における相互運用性のあるCOVID-19ワクチン接種証明書の展開について、加盟国との議論の基礎を提供することを目的としている。
トラストフレームワークは、COVID-19保健認証(ワクチン接種証明書)について、真正性や完全性が証明・信頼されるような方法で発行されることの保証に必要な規則やポリシー、プロトコル、様式、標準規格を明確化するものである。また、COVID-19保健認証について、デジタルとアナログ、オフラインとオンライン双方のバージョンだけでなく、関連した検証を可能にする規定を明確化するものだとしている。図1は、2次元バーコードを採用した、紙・デジタルのワクチン接種証明書のモックアップ事例を示している。
図1 紙・デジタルのワクチン接種証明書のモックアップ事例(クリックで拡大) 出典:eHealth Network「OUTLINE Interoperability of health certificates Trust framework V.1」(2021年3月12日)
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