1.6リッターターボと4WDで白熱したWRCは、PHEVと合成バイオ燃料で新時代へ:モータースポーツ超入門(8)(2/3 ページ)
最高速度は時速200kmを超え、ドリフトしながらコーナーを駆け抜ける。コースによってはジャンピングスポットも存在し、レーシングカーが空を舞う姿は圧巻だ。大自然の中も疾走するのがWRCの醍醐味(だいごみ)であるだけに、来シーズンからはプラグインハイブリッドシステムを採用するなど環境技術の導入も推し進めている。自動車の環境調和と持続可能性を追求する、「WRC新時代」がやってくる。
「市販車ベース」が基本だが、モンスターマシンも生まれた
約50年の歴史をもつWRC。現在、自動車メーカーが参戦する最上位クラスは「WRC」で、これまで幾度かの変更を経て、現在の車両規則「WR(ワールドラリー)カー」を使用するルールが適用されている。
WRカーは市販車をベースに大幅な改造を加えたWRC専用マシンだ。年間2万5千台以上を生産する車両がベースとなっているが、駆動方式の変更やワイドボディー化、ターボ装着など改造範囲の自由度が高い。そのため、WRカーはベース車両とは大きく異なり、高出力のターボエンジンやシーケンシャルトランスミッション、アクティブセンターデファレンシャル、大型エアロパーツなどが装着されている。
現在のWRカーに至る車両規則は、WRC創立当初のグループ4からグループB、グループAへと受け継がれてきた。グループ4は1973年のWRC設立から10年間、1982年まで採用された国際車両規則で、規則自体は1966年にFIAが規定したものだ。過去12カ月のうち最低500台(のちに400台)が製造された車両をベースにしており、「アルピーヌ・ルノーA110 1800」や「ランチア・ストラトスHF」などが有名だ。
1983年から採用されたのがグループBで、いわゆるモンスターマシンの時代だ。ベース車両の生産台数は200台に引き下げられ、さらに20台のラリーカーバージョンを生産すれば公認が得られる規則だった。これにより市販車ベースながらも実質的にはレースマシンに近い車両が使用されることになった。「プジョー・205ターボ16」や「ランチア・デルタS4」はその代表的なマシンだ。プジョー・205ターボ16はターボ付きエンジンをミッドシップに配置し、駆動方式は4WDに変更。ランチア・デルタS4はターボチャージャーとスーパーチャージャーの2種類の過給機をもつエンジンを備え、車両重量は890kg、4WDで高い戦闘力をもつマシンだった。
ただ、車両重量1トンを切る車体に500馬力を超えるエンジンを搭載したモンスターマシンにより、死亡事故が相次いで発生。1986年をもってグループBによるWRCは中止となり、もともとグループBに次ぐクラスだったグループAがWRCのトップクラスとして昇格することになった。
セリカ、インプレッサ、ランエボ……日本車が席巻したグループA
1987年から適用されたグループA規則では、ベース車両は過去12カ月で5000台(のちに2500台)以上生産されていることが条件だった。ただ、グループBとは異なり、エンジンやサスペンション、ボディーなどの改造は規制され、市販車に近いマシンで参戦することが求められた。つまり、ベース車両そのものの性能が極めて重要なクラスとなり、その結果、高性能な4WD車を持つ日系自動車メーカーがWRCを席巻する時代が訪れることになった。
トヨタ自動車は「セリカ」、富士重工業(現スバル)は「インプレッサ」、三菱自動車は「ランサーエボリューション」で参戦。とくに1990年代後半は日本車がドライバーズタイトル、マニュファクチャラーズタイトルを総なめする日本車黄金時代を築いた。
グループAはベース車の基本性能が重要となるだけに、実質的には排気量2l(リットル)のターボエンジンと4WDを組み合わせることが勝つための前提条件となっていた。ただ、このようなベース車のマーケット規模は小さく、商品として量産している自動車メーカーは限られるのが実情だった。この打開策として1997年に導入されたのが、現在につながるWRカー規定となる。これにより、高性能4WD車を持たなくとも参戦可能となったため、欧州自動車メーカーを中心にWRCへの参戦が相次いだ。日本勢ではスズキが「SX-4」で2007年、2008年シーズンに挑戦した。
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