金属材料の摩擦係数:設計者向けCAEを使ったボルト締結部の設計(5)(3/3 ページ)
部品の固定(締結)のために使用する“ボルトの設計”をテーマに、設計者向けCAE環境を用いて、必要とされる適切なボルトの呼び径と本数を決める方法を解説する。連載第5回では、金属同士の摩擦係数を測定したデータを紹介し、軸力見積もり時に使用すべき摩擦係数を提案する。
【補足】応力の単位として[MPa]を使っている理由
紙面が余りましたので、応力の単位表記法についてうんちくを述べましょう。本連載では、応力やヤング率の単位を[N/mm2]ではなく、[Pa]を使用しています。この理由を説明します。
過去、材料力学の講義などで[N/mm2]を用いていたという方もいらっしゃるでしょう。筆者は[kgf/mm2]でした。経験式や実験式は別として、工学の計算式では単位を表記していません。統一された単位系であれば、どの単位系でも使っていいのです。図9に示すように、計算式に統一した単位系の数値を代入したら、その単位系の答えが出てくるのです。
では、試しに図10に示す片持ちはりの自重によるたわみを求めてみましょう。材質は鋼とします。たわみは式2で計算できます。記号の意味は後述する表4を参照してください。
wは単位長さ当たりの荷重です。自重の場合は式3で計算できます。
N-mm単位系で計算しましょう。ヤング率E=2.00×105[N/mm2]、重力加速度g=9800[mm/s2]、密度ρ=7.8×10-6[kg/mm]でよいでしょうか。mm-kg-s単位で統一しました。
おや、たわみが9.17[mm]となってしまいました。ゴムでもない限りこんなにたわみません。CAE解析をした結果を図11に示します。たわみは0.00912[mm]でミクロンオーダーです。誤って、1000倍大きなたわみを計算してしまったようです。
どこを間違えたのでしょうか。密度ですね。密度の単位は[kg/mm3]ではなく、[ton/mm3]にすることがお約束でした。密度が1000分の1倍になったので変位も1000分の1倍となり、これで正しく計算できます。質量の単位として[ton]が出てきました。これでは図9に示したような統一した単位の数値を代入していないことになります。原因はどこにあるのでしょうか。
その原因は、ヤング率の単位として[N/mm2]を使ったことにあります。ニュートンによる運動の第二法則f=mαを使って[N/mm2]の単位を分解してみましょう(式4)。
おや、キログラム[kg]とメートル[m]が出てきました。今回の計算は[ton]と[kg]、[mm]と[m]をごちゃ混ぜにして式に代入していることになります。このようなちぐはぐな使い方の帳尻合わせとして、密度の単位が[ton/mm3]となってしまったのです。図9とは程遠い式の使い方となってしまいますので、ヤング率の単位として[N/mm2]はあまりオススメできないのです。
では、SI単位系で計算してみましょう(表5)。
ミクロンオーダーのたわみ量となりました。[Pa]は[N/m2]で、[N]は[kg・m/s2]なので、m-kg-sと統一した単位で数値を式に代入しています。そうすると心配なく正しい答えが得られるのです。以上が、応力やヤング率の単位として[N/mm2]を使わずに[Pa]を使う理由です。 (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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