日本の伝統を受け継ぐ仮想環境「箱庭」でIoTシステムの統合開発を加速する:仮想環境を使ったクラウド時代の組み込み開発のススメ(2)(2/3 ページ)
IoT/クラウドロボティクス時代のシステム開発を加速化する仮想環境の活用について解説する本連載。第2回は、IT分野と組み込み分野の相克を乗り越えて、IoTのシステム開発/サービス構築をスムーズに進めるための「箱庭」を紹介する。
「箱庭」の構成要素となる「アセット」
箱庭の仮想シミュレーションは、複数のシミュレーターや技術要素を組み合わせて実現しています。このシステム技術要素のことを「アセット」と呼んでいます。われわれは、これらのアセット自体の開発と、アセット同士の通信方式や管理技術の確立について特に力を入れて取り組んでいます。ここからは、箱庭のさまざまなアセットについて紹介します。
TOPPERSカーネル
「TOPPERSカーネル」は、組み込み向けのオープンなカーネル実装です。主な適用対象は、高い信頼性、安全性、リアルタイム性を要求される組み込みシステムです。μITRON4.0仕様のスタンダードプロファイルを拡張した仕様となっています。なお、箱庭の活動は、TOPPERSカーネルを開発しているTOPPERSプロジェクト内の箱庭WG(ワーキンググループ)が主体となって進めています。
Athrill
「Athrill」は、箱庭の核である、CPU命令セットシミュレーターです。組み込みマイコンおよびペリフェラルの挙動を命令レベルでデバッグ、機能検証することができます。現在は「V850」「RH850」および「ARMv7-A」が主なサポート対象です。
mROS
「mROS」は、ロボットシステム開発のデファクトスタンダードとなっている通信ミドルウェアの「ROS(ROS1)」の組み込み向け軽量実行環境です。ホストPC上のROSマスタおよびROSノードに対する、組み込みマイコンからの出版購読型通信を実現します。複数のマイコンやECU(電子制御ユニット)で構成されるシステム内の通信での活用を想定しています。
RDBOX
「RDBOX(Robotics Developers BOX)」は、ROSベースのロボットやIoTに最適化した、Kubernetesクラスタとセキュアで拡張性の高いWi-Fiネットワークを自動構築するためのフレームワークです。シミュレーション環境と現実の作業環境をブリッジすることを目指しています。
Unity
「Unity」は、IDE(統合開発環境)を内蔵するゲームエンジンとして有名な、リアルタイム3D開発プラットフォームです。箱庭では、物理演算エンジンと空間可視化のために活用しています。
gRPC
「gRPC」は、Googleがオープンソースで公開している開発言語非依存のRPC(Remote Procedure Call:遠隔手続き呼び出し)フレームワークです。箱庭コア機能をサーバとして、クライアントである箱庭アセットが疎に結合してシミュレーション情報をやりとりするのに使用しています。
astah*
「astah*」は、ソフトウェア設計のためのモデリングツールです。箱庭上で動作するアセットのシステム構成やアセット/コア間のつながりを、GUIベースで直感的に記述して設定ファイルを自動生成できる専用プラグインを開発しています。
「箱庭」の目指していること
箱庭のターゲットは、さまざまな機器がネットワークで接続された情報システムです。自動運転システムや物流サービス、さらには宇宙分野など、IoTが活用されるさまざまな分野を想定しています。対象となるユーザーは、IoTシステムとその構成要素を開発する技術者である「システム開発者」、IoTを活用してシステムサービスの提供を進める技術者である「サービス提供者」、そして、システム構成要素である「箱庭アセットの開発者および提供者」です。
箱庭は、複雑なIoTシステムを開発、提供する技術者のための、仮想的な開発環境とエコシステムを構築することを目指しています。全体結合シミュレーション環境である箱庭は、コア機能としてアセットの「スケジューリング」「同期・通信」「時間管理」および「アセット管理」を実現します。
これらと、サードパーティー技術である可視化やクラウドの技術と組み合わせることで、システム開発者にはスケール向上や検査自動化、問題早期検出などのメリットを、サービス提供者にはさまざまな試行に要する手間の軽減といったメリットを提供します。これによって、システム開発者とサービス提供者の間での、サービス要件の早期キャッチアップや改善要望の早期リリースといった、IoTシステム開発を加速化するためのフィードバックループを産み出します。
箱庭のアセットは、われわれ箱庭WGで開発している成果物に加えて、第三者から提供されるサードパーティーのツールやシミュレーターも自由に結合できるようになっています。将来像として、これら箱庭アセットの利用者から開発者および提供者に収益を還元できるようなビジネスモデルも検討しています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.