完成車輸送の脱炭素へ、日本郵船がLNG船に2000億円投資:船も「CASE」(2/2 ページ)
日本郵船は2021年6月15日、日本国内の造船会社2社と覚書を締結し、2025〜2028年度で12隻のLNG(液化天然ガス)を燃料とする自動車専用船を建造すると発表した。
自動車業界が関心を寄せる「海運のカーボンニュートラル化」
日本郵船では2020年10月に完成した日本初のLNG燃料自動車専用船「SAKURA LEADER」以降、新造する自動車専用船をLNG燃料船に切り替えており、既に2024年までに8隻の投入が決まっている。2028年度には日本郵船のLNG燃料自動車専用船が合計20隻となり、同社の船隊の2割程度を占める。2030年ごろからはアンモニアや水素などより環境負荷の低い燃料を用いたゼロエミッション船を投入し、重油焚き船と入れ替えていく。
日本郵船 専務執行役員で自動車輸送本部長の曽我貴也氏は「自動車専用船のCO2排出低減は、顧客である自動車メーカーから高い関心が寄せられている。欧州の自動車メーカーは2〜3年前から海運の排出低減も必要だと強く主張しており、日系自動車メーカーも政府が2050年のカーボンニュートラルに向けた方針を発表してから急速に関心を寄せている。最近になって、サプライチェーンや新車の輸送も含めライフサイクル全体を見た排出低減への意識が高まってきたという印象だ」とコメントした。
今回発表した12隻のLNG燃料船を建造するのは新来島どっくと日本シップヤードで、それぞれ6隻ずつ担当する。12隻は全長199.95m、型幅38m、最大積載自動車台数6800〜7000台を共通仕様とし、新来島どっくと日本シップヤードが協力して原価低減や新技術の採用、改良に取り組む。日本郵船は複数の船の建造を発注する長期契約とすることにより、造船事業者がカーボンニュートラルに投資しやすくしたい考えだ。日本郵船は20隻のLNG燃料自動車専用船を導入するにあたって合計2000億円を投資する。
船の燃料はアンモニアが有望か
日本郵船の船隊構成計画では、2050年時点の温室効果ガスの排出を2015年比で90%削減するため、LNG燃料船や次世代燃料船を順次増やしていく。従来の重油焚き船の使用は2045年ごろに終了する計画だ。これは、2017年に導入した重油焚き船が25〜30年経過して寿命を迎えるためだ。2028年までに12隻のLNG燃料船を導入した後、2029〜2034年でLNG燃料船もしくは次世代燃料船を20隻新たに導入する。
2029〜2034年で導入する20隻はアンモニア燃料船が有力だとしている。アンモニア燃料は沸点が低く体積が水素よりも小さいことから保管や運搬の利便性が高い。自動車輸送本部長の曽我氏は「アンモニア燃料船のカギはエンジンの開発だ。アンモニアは火をつけにくいというデメリットもある。また、重油とアンモニアを混ぜて燃焼させる上で、どのようにアンモニアの比率を増やしていけるかが課題となる。水素にもメリットはあるが、現時点ではアンモニアが便利になりそうだと見込んでいる」と述べた。
LNG燃料船の比率は今後、2050年に向けて大幅には増えない見込みだ。その中でもLNG燃料船に投資するのは、「今ある技術で少しでも温室効果ガスの排出を削減するため」(曽我氏)だという。「アンモニアや水素が船舶燃料として明日にでも使えるのであればそれを待つ。アンモニアは以前よりも開発が進んで実用化が前倒しされそうだが、それでもいつという確証はなく、現時点の確かな技術であるLNGの採用を決めた」(曽我氏)。
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