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原点は宇宙エレベーターの夢、“曲がる”自走型ロープウェイができるまでモノづくりスタートアップ開発物語(10)(3/3 ページ)

モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。最終回は「曲がれるロープウェイ」の開発に取り組むZip Infrastructureを紹介する。宇宙エレベーター実現の夢から開発を始めたが、受託案件で手痛い失敗を経験したこともあった。

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過去の失敗から安全性を徹底的に重視

――ちなみに、なぜ宇宙エレベーターの開発に興味を引かれたのでしょうか。

須知氏 小さい頃から工作が大好きで、その時の体験がいまにつながっているのだと思います。小学生のとき、図書室にあった工作の本の最終ページに、「紙パックで作れる船」の作り方が載っていたので、同級生30人が給食で飲んだ牛乳パックを1カ月集めて、家で紙パックを洗って干して、実際に作りました。学校のプール開きの日に船を浮かべて乗ったのですが、10分ほどで浸水して沈んでしまいましたが。

――いえいえ、なかなかまねできない実行力です。開発は順調でしたか。

須知氏 制御するセンサーを組み込んだり、人を運ぶカゴ部分を大型化したりするのは順調に進みました。ただ運ぶ重量が増えると、車輪が摩擦で削れてしまうことが分かりました。車輪には加工のしやすさからアルミニウムを使っていましたが、2019年初めからはステンレスに変更しました。

 また、ロープとレールの連結部分は段差があると乗り心地が悪くなるので、スムーズに乗り移れるようにうまく設計しました。


Zipparの車輪部分イメージ[クリックして拡大]

「自分たちがやろうとしていることはスマホのアプリとは違う」

――人を運ぶということは安全性が重要になってきますね。

須知氏 はい。実は工事現場で物を運ぶロープウェイを受託開発したのですが、2019年12月に自走機が落下してしまいました。幸いけが人や被害は出なかったのですが、工事現場の人からは強くお叱りをいただきました。

 その時、自分たちが造ろうとしているものは、「スマートフォンのアプリとは違う」と強く実感しました。事故が発生すれば人の命に関わることですし、不良箇所を後から修正するのは難しい。少しのミスが取り返しのつかない事故につながりかねないのだと。

 落下原因を徹底的に追求したところ、部品の付け忘れでした。そのときの反省を生かし、現在は周囲から厳し過ぎるといわれるほど何重にも点検をしています。

2050年には宇宙エレベーターの研究を始めたい

――Zipparについても安全性については厳格さが求められますね。

須知氏 国土交通省と協議した結果、Zipparはロープウェイと分類されたので、自走部分やカーブ時の安全性などを検証するための第三者委員会をこれから当社で作り安全性をしっかりと確かめていきます。2021年9月には実験場を移転して大規模化しますし、北海道や沖縄など気象条件が過酷な場所での実験も予定しています。そこで4人乗りなどのあらゆる実験データを測定し、第三者委員会の専門家にご評価いただきます。2024年には量産化を始め、2025年に実用化できればと思っています。

――着実に進みつつありますね。

須知氏 国からロープウェイと分類されたことで、克服しないといけない基準や課題が明確化したので、事業化の道筋が見えてきたと思っています。いま困っているのはエンジニアの確保です。あらゆる基準をクリアするためにエンジニアの力が欲しい。

――宇宙エレベーターの実現という夢はどうでしょうか。

須知氏 まだ諦めていません。2050年には宇宙エレベーターの研究に打ち込みたいと思っています。宇宙と結ぶケーブル素材(カーボンナノチューブ)も開発が進んでいるでしょうし、Zipparを続けることで私たちにも知識やノウハウが蓄積しているでしょうから、今度こそ、宇宙エレベーターを実現できると思っています。



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