原点は宇宙エレベーターの夢、“曲がる”自走型ロープウェイができるまで:モノづくりスタートアップ開発物語(10)(2/3 ページ)
モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。最終回は「曲がれるロープウェイ」の開発に取り組むZip Infrastructureを紹介する。宇宙エレベーター実現の夢から開発を始めたが、受託案件で手痛い失敗を経験したこともあった。
小田原の山中を“開墾”して造った実験場
――Zipparの1人乗りモデルの実証実験が終了したと聞きました。
須知高匡氏(以下、須知氏) はい、2020年末に終わりました。耐久重量100kgは問題なくクリアし、電力消費量は普通のロープウェイ程度で済むことも分かりました。ただ、勾配角度によって車輪とロープの間でスリップする危険性があったので、いまはその調整をしています。
――実験場所は山中です。実験場所を造るのも大変だったのではないですか。
須知氏 もともとは母校の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス内に実験線を造る予定だったのですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、大学内には造れなくなってしまって。研究開発の受託先から「山があるから使っていいよ」といわれて現地に行くと、自然のままの山林でした。草刈り、土掘り……まさに“開墾”しているようなもので、実験場所に行くまでの道路や階段を整備し、木を切ってロープを張るという作業を行いました。2020年春から造り始めて夏までかかりました。
――そもそも、なぜ、ロープウェイの開発をしようと考えたのですか。
須知氏 大学進学にあたって、好きなことや得意なことをやりたいと思いました。ちょうどその頃、宇宙エレベーター構想があることを知りました。赤道の上空約3万6000kmにある静止衛星から地球側と宇宙側にケーブルを延ばして、人や物資を輸送できるようにするというアイデアです。この研究をしているサークルがあったことが決め手になって2016年、慶応義塾大学に入学しました。
宇宙エレベーター開発の技術を基に創業
――宇宙エレベーターには車輪が付いています。これがZipparの原型なのですね。
須知氏 いま考えるとそうなりますが、その頃は宇宙エレベーターを実現させたいという思いが強かったです。ただ、実験のため上空約1kmに気球を上げるのにも費用が数百万円かかるので、現実の厳しさも実感していました。大学3年生になった頃、同級生が就職活動を始める中、私は2018年にZip Infrastructureを起業し、宇宙エレベーターの技術を使ってメーカーからの受託開発を始めました。
受託開発を進めるうちに、ロープウェイを活用した事業は幅広いと感じ始めました。農業なら収穫物を運べるし、林業や物流にも汎用できる。最終的に最も市場が大きいのは交通だと思い、一気にいまの事業に進んでいくことになりました。
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