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原点は宇宙エレベーターの夢、“曲がる”自走型ロープウェイができるまでモノづくりスタートアップ開発物語(10)(1/3 ページ)

モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。最終回は「曲がれるロープウェイ」の開発に取り組むZip Infrastructureを紹介する。宇宙エレベーター実現の夢から開発を始めたが、受託案件で手痛い失敗を経験したこともあった。

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 夢は宇宙空間にまでつながる「宇宙エレベーター」の開発だった。その夢を追いかけているうちに、いまのビジネスにたどり着いた――。

 東京・秋葉原の会員制モノづくり施設「DMM.make AKIBA」で社会課題を解決しようと奔走しているスタートアップを追いかける連載「モノづくりスタートアップ開発物語」の最終回は、ロープと軌道(レール)を自在に進む「曲がれるロープウェイ」の開発に取り組むZip Infrastructure(ジップ・インフラストラクチャー)を取り上げる。同社 代表取締役社長の須知高匡氏に開発経緯や展望を聞いた。


Zip Infrastructureの須知高匡氏

ロープとレールを電動で自走するZippar

 都市交通がさまざまな課題を抱えていることは、普段の暮らしを振り返ればすぐに分かるだろう。最も大きな課題の1つは、買い物や旅行など日々の生活を不便なものにする「渋滞」だ。社会的な影響も深刻で、国土交通省が2015年に発表した「高速道路を中心とした『道路を賢く使う取組』の基本方針」によると、2012年時点での国内の交通渋滞による年間渋滞損失時間※1の総計は約50億時間にも及ぶ。これに日本国民の平均賃金を掛け合わせると、経済損失額は10兆円に上る計算だ※2

※1:他の経済活動に費やせたはずの時間が渋滞によって失われた時間のこと。

※2:厚生労働省が発表した「平成24年賃金構造基本統計調査」の現金給与額を基に算出。

 渋滞以外にも課題は多い。例えば「開かずの踏切」。踏切で立ち往生してしまい、目的地までの道のりを大きく迂回せざるを得ない人もいる。また特に地方では、地域間を細かくつなぐバス路線の廃止や運転間隔の間引きが問題化している。運転手の確保が難しいことなどが原因だ。

 こうした課題を解消する手段として注目を集めているのが、2018年に創業したZip Infrastructureが開発中の“曲がれる”電動自走型ロープウェイ「Zippar(ジッパー)」である。神奈川県小田原市の山中に造った約80mの実験線で、2020年10月から1人乗りモデルの実証実験を始めており、2021年内にはさらに大規模の実験線を張り巡らせ、4人乗りロープウェイの実験も開始する予定だという。

 Zipparはゴンドラの車輪でロープを挟み込み、電動で自走するという仕組みを採用したロープウェイだ。

 従来のロープウェイはゴンドラ部分をロープにぶら下げて固定し、ロープを動かすことでゴンドラを移動させる。他の交通システムに比べ開発費は安く抑えられるが、軌道となるロープはピンと張られた状態で引っ張るためにカーブを描いたり容易に別の方向へ転換したりすることができない。さらに、1つのゴンドラを動かすためにロープ全体を動かす必要があるため需要に応じて運転本数を柔軟に調整することが困難だ。

 一方でZipparの走行方式では、ロープとレールを自由に配置することで、従来のロープウェイでは実現が困難だったカーブにも対応できる。ロープだけでなくレールでも自走できる技術を開発(2021年4月に特許取得済)しており、より柔軟な運行体制を整備することが可能である。


20分の1スケールの模型。直線はロープ、カーブにはレールを採用している*出典:Zip Infrastructure[クリックして拡大]

 公道上に高架軌道を設置できれば、土地取得費用をほとんどかけずにロープウェイを運行できる。建設に要する工期短縮や費用圧縮が見込めることから、多くの自治体から問い合わせが寄せられているという。


4人乗り「Zippar」完成イメージ図*出典:Zip Infrastructure[クリックして拡大]

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