F1以上のコーナリング性能のシャシーも生まれた「スーパーフォーミュラ」:モータースポーツ超入門(6)(2/2 ページ)
スーパーフォーミュラ(SF)は国内最高峰のフォーミュラレースだ。世界の頂点にはF1(フォーミュラ・ワン)があり、欧州で開催される下位クラスのF2とともに、F1にステップアップするための登竜門カテゴリーとして世界中から注目を集めている。過去にはF1ワールドチャンピオンのミハエル・シューマッハ氏やインディ500ウイナーの佐藤琢磨氏、現在、F1のアルファタウリ・ホンダに所属するピエール・ガスリー氏も2017年に参戦している。
エンジンは日本製、トヨタとホンダが活躍
現在、エンジンについてはトヨタ自動車とホンダが供給している。かつてF3000時代にはホンダ系の無限(現M-TEC)や米国フォード・コスワース、英国ジャッドが共有していたが、フォーミュラ・ニッポンに移行したあとの1999年からは無限がワンメイク供給。2006年シーズンからはトヨタとホンダが専用エンジンとして排気量3.4l(リットル)のV型8気筒自然吸気エンジンを供給していた。
エンジンに関しては2014年に大きな技術変更が加えられた。スーパーフォーミュラとともに国内最高峰のモータースポーツとして双璧をなすスーパーGTと共用するエンジン「NRE(日本レースエンジン)」が誕生したのだ。
NREは環境性能とパワーを両立したエンジンで、スーパーGTに参戦するトヨタ、ホンダ、日産自動車の3社が協力して基本コンセプトを開発。コスト低減と環境技術開発の推進、そして市販車への技術的フィードバックを狙い、過給ダウンサイジングコンセプトを導入した2l(リットル)の直列4気筒直噴ターボエンジンを開発した。
NREでは燃料流量制限を導入している。F1やWEC(世界耐久選手権)でも採用している方式で、エンジンに入る燃料の量を燃料リストラクターと呼ばれる装置で制限する規制だ。その目的は高効率なエンジンを実現することにあり、少ない燃料を効率的に燃やし、燃焼効率を高めることでエネルギーを得るという環境技術につなげる狙いがある。
低燃費ながらパワーを出すエンジンがレースに勝利する――。こうした構図を実現するのがNREの役目といえる。モータースポーツで培った環境技術が市販車にもフィードバックされるとなれば、自動車メーカーがモータースポーツに参戦する意義が明確になり、レースエンジニアのモチベーションアップにもつながることが期待されている。
抜きつ抜かれつ、「オーバーテイクシステム」
スーパーフォーミュラでは燃料流量を制限する燃料リストラクターをエンターテインメントに活用するルールも導入している。「オーバーテイクシステム(OTS)」と呼ばれるもので、ドライバーのステアリング操作により、燃料の流量を一時的に増やしパワーを上げることができる。システム作動中は燃料流量が10kg/h増え、エンジン出力は約60馬力アップ。その名の通り、抜きつ抜かれつのバトルを生み出す技術的な仕組みとなっている。
OTSが使われているかどうかはドライバーのヘルメット後方にある「オーバーテイクランプ(OTL)」の点滅状態と、これに連動するリアコーションランプで確認できる。観客はもとより、後方を走るドライバーも作動状態が視認できるため、ドライバーの心理状態にも影響を与える重要なデバイスとなっているといえるだろう。
今シーズンからは決勝レース中に最大で200秒間(前年までは100秒間)使えるレギュレーションが変更された。ただし、OTS使用後100秒間は使うことができないようになっている。
スーパーフォーミュラはダラーラ製シャシー「SF19」と日本製エンジン「NRE」のパッケージで、他に類を見ないコンペティティティブなレース展開を見せている。世界最高峰F1への登竜門として来日する外国人ドライバーは少なくなく、今シーズンは元F1ドライバーのジャン・アレジ氏と女優の後藤久美子氏の息子であるジュリアーノ・アレジ選手が下位カテゴリーのSFライツに参戦中だ。スーパーフォーミュラ第2戦(2021年4月25〜26日)、第3戦(5月16〜17日)には正ドライバーの代理ながらも出場。第3戦では荒天に見舞われたレースを制し、初優勝を果たした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- トヨタが水素エンジンをスーパー耐久シリーズに提供、2021年5月から走る
トヨタ自動車は2021年4月22日、水素エンジンを開発すると発表した。圧縮気体水素を燃料として使用する排気量1.6l(リットル)の直列3気筒インタークーラーターボエンジンをレーシングチーム「ORC ROOKIE Racing」の参戦車両向けに投入する。 - モータースポーツの見どころは順位だけではない! 「走る実験室」で磨かれる技術
順位を競うだけではないのがモータースポーツの世界だ。技術競争の場でもあるからこそ、人やモノ、金が集まり、自動車技術が進化する。知られているようで知らないモータースポーツでの技術開発競争について、レースカテゴリーや部品ごとに紹介していく。1回目はF1(フォーミュラ・ワン)を取り上げる。 - ディーゼル、ダウンサイジングターボ、HV……パワートレインのトレンドを映すWEC
F1、世界ラリー選手権(WRC)とともに国際自動車連盟(FIA)が統括する世界選手権が、世界耐久選手権(WEC)だ。フランスで毎年行われる「ル・マン24時間耐久レース」(以下、ル・マン)」を含むレースカテゴリーで、2020年9月に開催された今年のル・マンでは、トヨタ自動車が3年連続の総合優勝を果たしている。 - 都市型モータースポーツ「フォーミュラE」、アウディBMWの撤退から見える転換点とは
自動車産業が直面する電動化のうねりはモータースポーツにも押し寄せている。F1は運動エネルギーと排気エネルギーを回収するエネルギー回生システム「ERS(Energy Recovery System」を搭載、世界耐久選手権(WEC)の最上位クラスではハイブリッドシステムを採用する。レーシングカーの電動化も市販車と同様に確実に進んでいる状況だ。 - GRスープラやNSX、GT-Rが競うスーパーGT、共通化と競争領域を使い分け
最高峰のGTレースにして、世界でも類を見ないコンペティティブな環境が整うレースカテゴリーが日本に存在する。それがスーパーGTだ。上位クラスのGT500ではトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車が三つどもえの戦いを展開し、下位のGT300ではポルシェやランボルギーニ、フェラーリといった世界の名だたるスーパースポーツカーが参戦する。